● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

「米国はなぜ不良債権処理『加速』を求めるのか」(「前衛」2003年1号)
 この一年半、政府の様々な不良債権処理策が打ち出される背景には、つねに米国の「圧力」があった。もちろん、日本側にも株価資本主義や金融改革(ビッグバン)など「アメリカン・スタンダード」への忠誠を前提に、株価下落による銀行の自己資本低下への不安や、不良債権を不況の元凶とする竹中流の供給サイド偏重論など、小泉内閣なりに処理を急ぐ動機はあったが、米国が日本の不良債権処理を加速させるために、その都度、執拗に「圧力」をかけてきたことは事実である。
 米国はなぜ日本政府に不良債権処理を急がせるのか、それが10月末に出された竹中「加速策」(「金融再生プログラム」)とどう結びついているのかを考えてみたい。
米国の「圧力」で始まり、「進展」する不良債権処理策
 まず、日米政府の動きと、不良債権処理策の推移をふりかえってみよう。
 日本の不良債権の早期処理が、はじめて経済の中心問題としてクローズアップされたのは、2001年3月19日の森首相(当時)とブッシュ大統領との会談である。この会談で、ブッシュがとくに取りあげたのが、日本の不良債権問題であった。ブッシュは「苦い薬を早く飲めば(病気も)早く良くなる」と早期処理をうながし、森首相も「効果的な取りくみを急ぐ」と約束をした(ワシントン「共同通信」3月20日)。
 帰国後すぐ、森首相は与党、関係省庁との検討に入り、4月6日に「緊急経済対策」を発表した。この「対策」の中心は、目標年度を決めた「不良債権の抜本的なオフバランス化(直接償却)」であった。主要行は、破綻懸念先以下の債権については、原則として3営業年度以内、すでに破綻懸念先以下の債権に区分されているものについては2営業年度以内にオフバランス化をおこなうというものである。
 4月26日、森内閣が退陣、小泉内閣が発足し「不良債権の早期最終処理」を打ち出したが、その第一課題も不良債権の「早期最終処理」となった。
 6月30日にキャンプデービットで開かれた小泉首相とブッシュ大統領の会談では、不良債権処理について、小泉首相は「今後、2、3年以内の解決を目指す」と決意を表明、ブッシュ大統領も支持を言明した。共同声明「経済パートナーシップ」に盛り込まれた「投資イニシアチブ」について、ブッシュ大統領は「不良債権処理をすすめるうえで外国からの直接投資の促進が重要だ」と助言した(ワシントン「共同通信」7月1日)。
 10月7日、ワシントンで、日米次官級会議が開催され、米国側のジョン・テイラー財務次官は「不良債権のオフバランスだけでなく企業の再編」「銀行への貸倒引当金の積み増し強制」などを求めた。これに対し金融庁側は、2002年3月までに「特別検査」を完了し、要注意先企業を洗い直す方針であることを説明した。さらに米国側は「RCC(整理回収機構)が不良債権を塩漬けすることなく確実に市場で売却することが重要」と強調した。
 2002年1月7日、訪米中の竹中経済財政担当大臣は、ハバードCEA(大統領経済諮問委員会)委員長、リンゼー大統領補佐官(経済政策担当)、オニール財務長官と個別に会談し、金融機関に公的資金を再注入することに前向きな考えを表明した(同・1月8日)。
 1月17日にブッシュ大統領は、小泉首相あてに極秘扱いの「親書」を出した。親書では「これは『外圧』でなく、友人としての助言と受け取ってほしい」と前置きしたうえで、「日本政府が銀行検査を強化するなどの措置をとってきたことは喜ばしい。しかしながら、銀行の不良債権や企業の不稼動資産が、早期に市場に売却されていないことに、強い懸念を感じる」「日本が不良債権を処分し、(塩漬けになっている)資金や企業の不稼動資産を解き放ち、最も効果的に資産を活用できる人たちの手にゆだねて、機能を回復させることが必要だと信じている」と述べている(「朝日」2月28日付)。
 この「最も効果的に資産を活用できる人たち」が、外資(おもに米国系)の投資ファンドを指していることは誰の目にも明らかであろう。要するに、ブッシュの要求は、RCCに不良債権の市場への売却を急がせる(時価より安くたたき売る)、裏を返せば米国企業が日本の資産を買いたたくということである。このことは、RCCに二次損失を生じさせ、国民負担を増大させることになる。この「ブッシュ親書」が極秘扱いになった理由は、日本国民の税金負担で、米国企業が不良債権を安く買い取るというあまりに露骨で身勝手な要求だったからである。
 しかし、1月27日、日本政府がまとめたデフレ対応策では、株の「空売り規制」など株価対策に重点が置かれ、RCCが買い取った不良債権の早期売却までは踏みこまず、「親書」でブッシュが求めた内容に応えるものにはならなかった。この頃から、米国側の「苛立ち」がさらに高まってくることになる。
 3月19日、ハバードCEA委員長は東京で講演し「重要なことは資産の買い取りがおこなわれ、それが政府以外の民間の市場参加者の手に早く入ることだ」と語った。
 5月2日、オニール米財務長官は、ニューヨークでの講演で、日本の金融機関が「不良債権について厳格な査定をおこない、リスクに見合った金利を要求すべき」「経営不振企業が持つ資産は公開入札で売却すべきだ」と、不良債権の市場を通じた処理促進を求めた(5月2日「ワシントン共同通信」及び米国大使館ホームページ「講演草稿」より)。
 6月25日、カルガリーでの日米首脳会談で、小泉首相は、不良債権処理について「なかなか見えにくいかも知れないが、昨年来、日本なりの方法で着実に進めている」と理解を求めた。
 米国の求めるレベルにはなかなか応えきれなかった小泉内閣の「早期最終処理」だが、02年9月に入って事態は急展開する。
 9月12日、ニューヨークでの日米首脳会談で、ブッシュに不良債権処理を急ぐように強く求められた小泉首相は、不良債権処理の遅れを認め「改革を軌道に乗せるためにも不良債権の処理を加速する」と強い決意を表明した。これにたいし、ブッシュは首相の姿勢を高く評価した(ワシントン「共同通信」・同日)。
 9月13日、来日中のハバードCEA委員長は、柳沢金融担当大臣、竹中経済財政担当大臣と相次いで会談、不良債権処理の加速のために「さらに厳しい検査が必要」「将来的には公的資金投入の注入も必要」と指摘した。これにたいし竹中大臣は同調したが、柳沢大臣は「今は必要ない」と強く反対した(「読売」17日付)。同日の閣議後の記者会見でも、柳沢大臣は不良債権処理の加速について、「これまでのスケジュールを先取りする格好でやっていく」(「日経」14日付)と述べるにとどまった。このハバードとの会談で、柳沢がハバードに抵抗し、竹中がハバードに同調したことが、その後の内閣改造人事(柳沢更迭、竹中の金融担当兼務)に決定的な影響を与えたと考えられる。
 9月15日、小泉首相は帰国後、柳沢、竹中の両大臣と個別に会談し、不良債権処理の「加速策」について話し合った。柳沢大臣は「不良債権処理は着実に進んでいる。大口債権の最終処理を一年以内に実施するよう大手行に義務づければ良いのではないか」と、従来の主張をくり返したが、竹中は柳沢路線を真っ向から否定し「これまでのやり方では市場や欧米は信用しない。経営状態の悪い銀行には税金を投入し、場合によっては国有化するべきだ」と米国と同じことを強硬に主張し「柳沢ではダメだ」と訴えた(「ウィークリイ・ポスト」10月11日)。さらに、20日の経済財政諮問会議でも竹中が「不良銀行の国有化」を強く主張したが、柳沢は頑として受け入れなかったという(同)。
 なお、9月13日の「日経」経済教室で、ハバードCEA委員長は「破たん寸前の金融機関を整理することこそ選択肢とすべきである」と、銀行の救済でなく淘汰を主張している。
 9月30日、内閣改造。柳沢大臣が更迭され、竹中大臣が金融担当大臣を兼務することになる。同日、ハバードCEA委員長は、竹中大臣の兼務について、「竹中氏は優秀な改革者だ」と持ち上げ、就任を歓迎する意向を示した。
 10月11日には、ホワイトハウスや財務省、国務省の複数の米政府高官が、竹中大臣の公的資金の再投入を含む抜本的な改革方針を支持する考えをいっせいに表明した。ハバードCEA委員長は「貸し倒れ引き当て強化を通じて存続可能な銀行と破たん銀行を選別し、公的資金を再投入することを前提とした竹中構想を全面的に支持する」と強調した(「毎日」10月12日付)。これを聞いた竹中は喜んで、ハバードCEA委員長に返事の書簡を送る考えを明らかにした(「日経」10月16日付)。なお、もともと竹中とハバードは、竹中がハーバード大学の客員研究員をしていた頃からの旧知の間柄であり、今もカウンターパート(相談役)として「電話で緊密に連絡し合う」仲である。
 13日、ハバードCEA委員長は、記者会見で「公的資金の注入は生き残れる銀行に限って行うべきである」と語った(ワシントン「共同通信」・同日)
 21日、日米金融協議に出席するために来日したテーラー米財務次官は、日本記者クラブの講演で、日本における投資ファンドなどの成功例をあげ、それに見習って「企業再生」をすすめるよう主張している(「Raisinng economic growth in Japan」)。
 22日、竹中大臣が「中間報告」案を自民党幹部に示すと、自民党側が猛反発。予定していた「中間報告」公表は見送られた。23日の竹中大臣と大手銀行の首脳との会談でも、税効果会計の大幅な見直しなどを柱とする案について、大手銀行側から「資本不足に陥れば新規貸し出しが難しくなる」などとして反論が続出した。
 23日、ハバードCEA委員長は、ワシントンで記者会見し、「中間報告」公表が先送りされたことについて「改革の失敗は日本経済に極めて重い負担を課すことになる」と警告、「加速策」の断行を強く促した(ワシントン「共同通信」)。
 しかし、大手銀行七行の首脳は二五日夜、税効果会計見直しなどの不良債権「加速策」に全面的に反対する共同声明を出し、全国銀行協会の寺西正司会長(UFJ銀行頭取)は、主張が受け入れられない場合は国を相手取った行政訴訟も辞さない構えを示した。
 30日、政府・与党は不良債権処理「加速」のための「金融再生プログラム」「総合デフレ対策」を発表した。税効果会計の見直しについては時期の明確化を避けたが、資産の査定方法の厳格化、自己資本が不足する銀行に公的資金を注入することを明記した。
 同日、ハバードCEA委員長は、小泉内閣の不良債権処理「加速策」にたいし歓迎する旨の緊急声明を発表した。声明では、「加速策」について「実行されれば、不良債権の流動化を通じた資産の有効活用にもつながるだろう」と期待を表明した(ワシントン「共同通信」)。
 以上、日本の不良債権問題での米国大統領、高官から日本政府への「圧力」の推移と日本側の対応をみてきた。米国が一貫して求めてきたのは、たんに銀行が不良債権をオフバランス化する(帳簿上からなくす)だけでなく、銀行への厳しい検査(存続可能な銀行と破たん銀行との選別)、公的資金の投入(銀行の国有化)、不良債権の市場への売却である。
 これらを求める米国の本当のねらいは何なのか。次に米国の対日経済戦略そのものへ迫ってみたい。
「ワシントン・コンセンサス」の対日戦略
(一)「ワシントン・コンセンサス」
 米国の世界各国にたいする経済戦略は、米国政府(財務省)と「ウオール街」、FRB(連邦準備制度理事会)、IMF(国際通貨基金)、世界銀行とIIE(国際経済研究所)など有力シンクタンクとの密接な関係のなかで決定され、それは「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれている。
 米国はこの「ワシントン・コンセンサス」にもとづき、「グローバル化」を推し進め、世界の各地で経済問題が発生したときは、事実上、米国の「出先機関」になっているIMFや世界銀行などを動かしてきた。「ワシントン・コンセンサス」とは、要するに、米国が米ソ対立後の世界を経済的に支配するための総合戦略のことである。IMFや世界銀行の活動も、たんに相手国の経済危機を救済し、再建を援助するだけのものでは決してない。ロシア危機でも、九七年夏に勃発した東アジアの経済危機でも、「援助」と引き換えに、当事国の実情を無視した、一方的な市場原理主義と「構造調整」(structure adjustment)という「処方箋」を押しつけている。この「処方箋」の先にあるのは、米国企業による投資(おもに企業と銀行の買収)である。
 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』の著者である、米国の経済学者ジョセフ・スティグリッツは、2000年2月に、この「ワシントン・コンセンサス」のやり方に反対して、世界銀行副総裁を辞任した。同書のなかでも、「ワシントン・コンセンサス」がいかに、IMF、世界銀行などを通じて、世界各国の経済危機を米国(投資会社)の利益のために利用してきたかを痛烈に批判している。
 「ワシントン・コンセンサス」の尖兵である世界銀行の総裁ジェームズ・ウォルフェンソンは、米国投資会社ソロモン・ブラザーズ・スミス・バーニー社出身であり、世銀の総裁になる前は、自分で国際投資会社の社長をやっていた人物である。スティグリッツが指摘するように、「ワシントン・コンセンサス」の中枢にある考え方が、米系金融資本の投資戦略であることは明白である。
 九七年に経済危機に陥った韓国も、主だった銀行や大企業を外資の餌食にされた。九七年1月、韓宝(ハンポ)鉄鋼の倒産、起亜財閥の経営危機をきっかけに、海外の投資機関(とくに米国投資銀行)が資金を韓国から引き揚げ始めた。その後も資金流出が止まらず、外貨準備が悪化し、たまらず韓国政府は、11月にIMFに資金援助を要請した。
 12月にIMFから総額550億ドルにのぼる韓国支援のパッケージが発表されたが、IMFは資金援助の代わりに、「構造調整プログラム」を韓国政府に強要した。その中心は主要銀行の閉鎖・整理であった。韓国の場合は、危機の渦中にいたのが主として銀行だけだったため、為替変動相場での韓国通貨のウォンは弱くなったが、経済危機そのものは回避された。
 しかし、そのあと韓国で何が起きたのか。98年にボルボが三星グループの建設用重機部門を買収したが、その後も大企業が相次いで外資系に買収された。さらに、99年には米国投資会社ニュー・ブリッジ・キャピタルが韓国第一銀行を買収したのを始め、国有化された銀行の外資への売却がすすみ、2002年3月時点では、五行が、ゴールドマンサックス、BNBパリバなど外資系に売却された(日銀国際局資料)。
 副島隆彦氏は『日本の危機の本質』という著書のなかで、「韓国への緊急支援というのは、アメリカのグローバリストの国際投資家たちによる、韓国財閥系の直接的乗っ取りとセットだった」「韓国の大企業は、日本の大企業の30分の1ぐらいの値段でしかない。だから、ニューヨークの財界人たちの間を、超安値で買える韓国大企業の一覧表が出回っていた」と述べている。
 また韓国の「時事ジャーナル」(98年3月19日号)は、「ワシントン・コンセンサス」という題名の記事を掲載し、その中で、韓国神学大の国際経済学者ソヨン氏は、「韓国で起きている一連の出来事はすべて『ワシントン・コンセンサス』のお膳立てによるもので、彼らの本当の狙いは、『国際資本が開発途上国を攻略すること』にある」と述べている。
 しかし、「ワシントン・コンセンサス」は、開発途上国だけをターゲットにしているわけではない。あらゆる世界市場への米系金融資本の進出である。すでに日本にも、米国に本拠を置く投資企業が数多く進出している。いかに経済大国でも日本だけが「ワシントン・コンセンサス」の「攻略」の対象にならないことはありえない。事実、破たん処理だけで3兆2000億円以上の税金をつぎ込んだあげく、「瑕疵担保条項」までつけてわずか10億円でリップルウッドへ売却された旧・日本長期信用銀行(現在の新生銀行)の例を見ても、すでに日本は「攻略」されているのである。ひたすら貪欲に投資利益だけを追い求める米系投資資本の巨大マネーが、韓国で一息ついたあと、次は本格的に日本に食指を動かそうとしても何の不思議もない。
 いま、この「ワシントン・コンセンサス」が日本に対してどういう経済戦略をとろうとしているのか、関係機関、関係者の日本経済および不良債権問題に関する報告、発言をたどってみよう。

(二)関係機関、関係者の報告・発言
【米国外交問題評議会リポート「新政権のための対日経済指針」】(「Future direction for U.S. economic policy toward Japan」「Foreign affairs」(2000年12月) ブッシュ新政権に対日経済政策を提言するこのリポートをまとめた「タクスフォース(特別諮問委員会)」のメンバーは、代表のローラ・タイソン・カリフォルニア大学教授をはじめ、IIE(国際経済研究所)のアダム・ポーゼン、ブルッキングス研究所のエドワード・J・リンカーンなど、米国政府の経済政策(ワシントン・コンセンサス)の決定に大きな影響を与えている研究者、アナリストばかりである。
 このリポートでは、過去数年の日本経済と日米両政府の対応を分析しながら、「多くの日本企業や金融機関が、倒産の瀬戸際に追いつめられるなかで、外国の資本や専門的な知識を求めるようになった。外国企業にとってまたとない参入のチャンスが到来している」「不良債権を外国企業が買い取ることで銀行危機が回避できるなら有り難いと(官僚の一部からも)支持されている」「なかでもリップルウッドによる長銀の買収(新生銀行)は、日本が必要に迫られての選択だった」など身勝手な分析をしたうえで、日本政府に「海外からの直接投資の受け入れ」「金融市場の改革」を求めるよう提言している。
 さらに「日本のマクロ政策について相当な要求を公然と突きつけても、日米安全保障関係を守るため、日本が拒否するとは考えにくい」と日本に圧力をかけるよう提言している。
 この「対日経済指針」は、3カ月後の2001年3月の森・ブッシュ会談で、日本側が「不良債権処理促進」を公約したことで、さっそく実を結ぶことになる。また「指針」に盛り込まれた「銀行改革」や「規制緩和」など日本経済の各分野での「構造改革」要求が、小泉内閣発足後の「骨太方針」にも色濃く反映していることも注目すべきである。
【IIE(国際経済研究所)】 「対日経済指針」をまとめた一人でもあるIIEの上席研究員アダム・ポーゼンは、翌年3月の森・ブッシュ会談の直前に、「2001年日本、決定的行動か金融パニックか」(『Japan 2001 Decisive Action or Financial Panic』)を発表した。このなかで、ポーゼンは「日本は不良債権処理を進めないと、日本経済からの資本流出で、金利上昇が発生し、企業破綻を増大させる」とし、不良債権の抜本的処理を進めるための具体的手法として、「資産査定の厳格化と引当金の積み増し」「債務超過に陥った銀行は破綻させ、過少資本に陥った銀行は、売却または合併させるか、公的資本を導入し、資本強化を行う」「銀行の大幅な整理縮小、再編成」を提案している。
 さらに「もし日本政府が、政治的打撃を恐れたままであるならば、米国政府は不良債権問題の明快な解決に向けて日本政府に圧力をかけなければならない」と、圧力の必要性を説いている。このリポートも、森・ブッシュ会談とその後の日米実務者レベルの協議をつうじて、不良債権処理の具体策の策定に影響を与えたことは間違いない。
 同じくポーゼンの02年5月のリポート「不気味に迫る日本経済の危機」(『The Looming Japanese Crisis』)は、今回の不良債権処理「加速」を求めた米国のねらいを知るうえで重要である。
 ここでポーゼンは、「前回のリポートで提起した断固たる措置を取らなかったために日本経済の危機が深刻化している」とし、「もはや銀行閉鎖、自己資本注入などの総合政策の展開が、日本経済を危機の淵から救い出す唯一の道である」と主張している。さらに「金融危機の処理は、通常、銀行の一時的な国有化を結果とすること、銀行ビジネスの『大規模な外国(資本)の参加をともなう(”with large-scale foreign participation”)』米国モデルへの収斂を経ることで、日本は金融システムの安定化を達成できる」とし、「公的資金の投入→国有化→外資系への売却」を暗に求めている。
 さらに「最優先課題が、real bank cleanup(銀行の整理・淘汰)の実行であり、米国議会を満足させる唯一の改革である」とし、「小泉自身の最優先課題が防衛問題であることに注目し、この点での日本の貢献度の低さを圧力材料にして経済問題での米国要求の実行を迫るべき」とまで述べている。このアダム・ポーゼンのリポート以降、米国政府は、ハバードCEA委員長の発言に見られるように、日本の金融機関そのものの淘汰と米国型金融モデルへの移行(米国金融資本の日本の銀行買収を視野に)を日本に求めてくることになる。
 また9月27日には、IIEのバーグステン所長も「G7で米欧各国は日本に対して、不良債権処理の即時実施を、厳しい姿勢で迫るべきだ」とのべ、不良債権処理に向け「銀行に公的資金を大規模に注入(国有化)するなど徹底した対策を即時実行する必要がある」とし、「米欧各国が日本政府にどれだけ強い圧力を加えられるかが焦点になる」と語っている(「日経」9月27日付)。翌28日のG7では、塩川正十郎財務大臣が「公的資金を使う」と言った言わないの騒ぎが起こっている。
 なお、竹中大臣は、1989年から数年間、IIEの客員フェロー(研究員)をしており、彼自身「ワシントン・コンセンサス」の一員であった。その後も、米国政府高官や有力シンクタンクの研究者とは、深いつながりがあり、この点でも米国の意向の最大の「理解者」であることは間違いない。
【IMF(国際通貨基金)】 2002年8月8日、IMFは日本の経済政策に対する「年次審査報告」を発表し、この中で、日本経済について厳しい見通しを示して「銀行に公的資金を再注入してでも、抜本的な金融健全化策を断行すべきだ」と促した。さらに「報告」は、「RCCを活用した不良債権売買市場の早期創設」などを要求している。
 またIMFは、『World Economic Outlook』(2002年9月)の日本について述べた、「Japan: Are Growth Prospects Picking Up at Last?」のなかで、「特別検査を通じた主要銀行の不良債権処理と『生き残れる銀行』への公的資金の注入による資本強化、『生き残れない銀行』の市場からの退出」を求めている。
 さらに9月28日、ワシントンで開かれていた国際通貨基金(IMF)の金融委員会(IMFC)は、日本について「銀行や企業の再編、特に不良債権処理問題に積極的に取り組むべきだ」とする共同声明を採択した。また、この声明では一段の金融緩和の必要性を強調している。
【その他の「ワシントン・コンセンサス」関係者やウオール街の発言】 2001年10月、米国の「日本の金融問題に関する諮問グループ」のデビッド・クック氏(元米国RTC業務責任者)は、銀行に不良債権を速やかに売却させる手段を日本に要請し、同グループのリチャード・ギルトン氏も、「日本債務圧縮ファンド」(JDF)の設立と再建企業の債務と株式を交換する「デット・エクイテイ・スワップ」の創設を求める書簡を、10月18日、竹中大臣へ送った(『東洋経済』11月17日号)。当時の担当である柳沢大臣でなく、竹中大臣に送ったことは、いかに竹中が米国関係者の信頼が厚かったかを示している。
 また、ヘンリー・カフマン博士(米国の著名な経済アナリストであり、自らも投資ファンドを運営)は「これからは、不良債権そのものの売買より企業買収にターゲットを置く」「不良債権は暴力団がらみが多い。これからは銀行、生保の買収だ」「日本は輸出企業を助けるため円安政策を進める。外国資本は円が急落して日本企業が安く買えるタイミングを狙っている」「日本がどんなに困っても武士の情けで助けるなどありえない。それがグローバル経済の鉄則だ」と露骨に述べている(『週刊ポスト』2001年10月26日号)
 12月18日、FRBのマイヤー理事は、記者会見で日本経済に言及し、「最も重要なことは金融システムの問題がいかに深刻であるかを認識することだ。そのうえで、問題の解決策の一部として、公的資金の活用の必要性を認識する必要がある」と述べ、不良債権問題解決のため公的資金の再注入が必要との見解を示した(ワシントン「共同通信」)。
 02年10月14日、エドワード・リンカーン(ブルッキングス研究所上席研究員)は「ニューズウィーク」で、「わが友、竹中平蔵はまちがっていない」と題し、次のように述べている。「竹中は80年代からの友だ。彼は正しい政策をとろうとしている」「日本の銀行は自力では不良債権を処理できない。そこで必要になってくるのが公的資金の注入だ」「重要なのはその目的を不良債権処理に限定すること、乱脈経営が批判されている銀行の立て直しに税金を投入するのなら、銀行幹部を容赦なく投獄するくらいの気持ちで臨むべきだ」
 11月にウイリアム・シードマン(元米連邦預金保険公社〈FDIC〉総裁、整理信託公社の初代総裁)は、「最も大事なことは竹中プランにもとづいて、不良債権を外部に移し、債権を流動化して処理することだ」「RCCは回収よりもRSC(Resolusion sales Corporation)、つまり売却機関にすべきだ」(『日経ビジネス』11月四日号)と語っている。

(三)不良債権処理「加速」を求める米国の二つのねらい
 この一年半の米国政府の「圧力」と、「ワシントン・コンセンサス」関係機関、関係者の言動から浮かび上がってくる米国のねらいは、第一に、日本の銀行の「追い込み」と米国金融資本による支配、第二に、米国投資ファンド(いわゆるハゲタカファンド)による不良債権処理ビジネスである。
【日本の銀行の「追い込み」と米国金融資本による支配】
 2002年5月のIIE、アダム・ポーゼンのリポートで「『銀行の一時的な国有化』と『大規模な外国資本の参加』こそ、日本の金融システムの安定化を達成できる」という主張が打ち出されて以来、ハバードCEA委員長や米国政府高官は、さらに厳しい銀行検査による「存続可能な銀行と破たん銀行との選別」「存続可能な銀行への公的資金の再投入」に言及してきた。
 これは何を意味するのか。まず厳格な検査や自己資本の水増しになっている税効果会計を見直させ(IMF)、銀行を自己資本不足に追い込む、しかし、今までのような銀行の救済のために、公的資金をつかうべきではない(ハバードCEA委員長)。破たんさせるところは破たんさせ(IIE・アダム・ポーゼン)、そして、存続可能で公的資金の再投入をし(国有化し)て立て直す銀行も、銀行幹部に容赦なく責任を問い交代させる(ブルッキングス研究所・エドワード・リンカーン)……このシナリオどおりやれば、自己資本不足に陥った日本の銀行のうち、破たんさせたものは全くつぶすか、受け皿銀行に営業譲渡するしかない。いったん公的資金を入れて国有化した銀行も、旧経営陣を追い出し新たな経営陣を入れたとしても、そのまま国有化銀行のままでおくわけがなく、いずれ民間の受け皿銀行に営業譲渡か株式譲渡して売却するしかない。
 日本の大銀行全体に有無を言わせず「経営能力なし」の烙印を押したスキームのなかで、国有化された銀行に乗り込む「新経営陣」も、受け皿になる銀行も、外資系の投資銀行以外に考えられない。結局、このシナリオの行き着く先は日本の銀行の外資への売却である。
 日本の銀行が外資系になるというのはどういうことか。
 現在、日本の銀行では、新生銀行(旧長銀)、東京スター銀行(旧東京相和銀行)、関西さわやか銀行(旧幸福銀行)三行が外資系銀行である。なかでも外資参入の典型となったのが、新生銀行である。新生銀行は98年10月、旧長銀が特別公的管理を申請・一時国有化が決定し、翌99年9月、米投資会社リップルウッド・ホールデングスにわずか10億円で譲渡された。翌年3月、民間銀行・新生銀行として再スタートしたが、債権の価値が二割以上減少すれば預金保険機構に買い戻してもらえる「瑕疵担保条項」を行使し、01年9月までに預金保険機構に買い取らせた債権は、5580億円にのぼる。貸し剥がしも強烈で、新生銀行による強引な債権回収が破たんの引き金になったケースは、大手信販会社ライフ、そごう、マイカル、ダイエーなど数多くある。01年3月末の中小企業向け貸し出し残高が経営健全化計画を大幅に下回ったとして、業務改善命令をうけている。銀行が中小企業貸し出し計画の未達成で行政処分を受けたのは新生銀行が最初である。さらに03年3月に株式上場するときに、リップルウッドが「売り抜け」暴利を得るではないかと業界関係者には考えられている。
 九七年ごろより、米系金融資本は日本の1400兆円の個人資産を当て込んで、相次いで日本の証券市場に進出したが、不況と個人資産が貯蓄から投資へ動かないことで、メリルリンチ証券は、山一證券から引き継いだ店舗を28店舗中、20店を閉鎖。モルガンスタンレー証券も個人部門から撤退、ジェネラルやチャールズシュワブも撤退した。こういうなかで米国金融資本にとって、新生銀行は日本における「成功のモデル」となっている。
 ハバードCEA委員長などが、公的資金は、銀行救済ではなく、その破たん処理や受け皿銀行に売却するために使えというのは、「新生銀行モデル」すなわち旧長銀の破たん処理とリップルウッドへの売却を念頭に置いていると考えられる。不良債権も銀行がオフバランス化してなくすのではなく、銀行の破たん処理のなかで一気に処理、売却せよということである。
 しかし、もしもこんな方法で不良債権処理をやろうとすれば、莫大な公的資金が必要になる。前述のように、IMFの監督下にあった韓国では、ドラスチックな銀行整理と不良債権処理が行なわれた。使った公的資金は韓国のGDPの3割に匹敵する155兆ウォン(約150兆円)である。日本の大銀行は韓国の何倍ものメガバンクである。一つ二つ破たんさせても多大な公的資金を注ぎ込まなければならなくなり、日本の財政をいっそう破たんに追い込むのは間違いない。同時にこのシナリオは、深刻な不況の日本では、さらに大量の失業・倒産をまねき、国民のくらしと日本経済も破壊する。
 結局、最後にトクをするのは、外資だけである。この米国の描いたシナリオが、思いどおりに実現するかどうかはわからない。しかし、米国の求める「銀行の自己資本不足への追い込み→破たん処理か公的資金注入による国有化」の先には、外資(米国金融資本)への銀行売却とさらなる公的資金の投入があることは、しっかり見据えておく必要があるだろう。
【不良債権ビジネス】
 日本の不良債権処理は「外国企業にとってまたとない参入の機会」と述べた米国外交問題評議会リポート「新政権のための対日経済指針」にもとづき、米国政府が一貫して求めてきたのが、不良債権の市場への早期はきだしと、「最も効果的に資産を活用できる人(「ブッシュ親書」)、すなわち外資ファンドによる売買である。RCCが不良債権の市場への売却を急げば、時価より安くたたき売ることになり、それを米国投資ファンドが買って高く売れば、それだけ儲けが増す。RCCの二次損失は日本の国民が負担するので、米国には痛くも痒くもないという筋書きである。
 これはたんに不良債権の担保になっていた不動産の売買だけのことではない。破たん企業を安く買い取って、「再生」させて高く売る(企業再生)ことも、外資投資銀行の主要なビジネスである。
 日本の不良債権の売買市場の正確な規模をあらわすデータはないが、例えば、99年末までに、ゴールドマンサックス、メリルリンチ、ローンスター、サーベラス、モルガンスタンレーなどが買った不良債権は八〜10兆円(ただし10兆円は簿価ベース、実際はその5%〜10%で購入)(『テーミス』2002年5月号)と言われている。また2001年までに外資がバルクセールで買った不良債権は約30兆円という試算もある。いずれにせよ、米国投資ファンドにとって、日本の「不良債権市場」は、「企業再生」もふくめ、世界一大きなマーケットであることは間違いない。しかし、ダイエーのような企業温存型の再建策では、投資ファンドにはうまみがない。米国政府が不良債権の市場へのはきだしを急がせる強い理由はここにある。
 さらに、米国政府や「ワシントン・コンセンサス」メンバーと投資ファンドの関係・人脈も強いものがある。ポール・ヴォルカー前FRB議長は、リップルウッド社と親しく新生銀行の社外取締役であり、シードマン元RTC(米国整理信託公社)議長も投資ファンド全体の「顧問的存在」、クエール元副大統領(ブッシュ父政権)はサーベラス社顧問になっている。人脈からしても、市場規模からしても、(中間選挙を前にして)「ウオール街」(投資ファンド)が、米国政府をつうじて日本に不良債権処理「加速」の圧力をかけさせたと見ても何の不思議もない。
竹中「不良債権処理加速策」と米国のねらいは一致
 こうしてみてくると、今回の竹中大臣の「加速策」がまったく米国の三つのねらいを反映したものであることがわかる。
 第一に、銀行を無理矢理、自己資本不足に追い込む「加速策」のシナリオ自体〔「銀行の資産査定の厳格化(DCF導入)・繰り延べ税金資産見直し」→銀行の自己資本不足→公的資金注入→(優先株の普通株への転化)国有化→受け皿探し〕が外資(米国投資銀行)への売却に直結するもので、米国の要求そのものである。
 第二に、「不良債権の市場への即時売却」も、今回の「加速策」のメーンになっている。具体的には、査定厳格化の手法として、貸出先の将来の収益性などから逆算して現在価値を割り出す米国流の「ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)方式」の導入も盛り込まれているが、そもそもこの「DCF」は、「資産を売却する」ときに必要となるモノサシである。不良債権の市場への売却前提の資産評価である。
 銀行の債権を「新勘定(優良債権)」「旧勘定(不良債権)」にわけ、「旧勘定」をRCCか「再生機構」に送るのも市場への売却加速が目的である。
 竹中平蔵大臣はまるで米国の「代理人」のようである。竹中大臣は、「加速策」発表の直前に、与党との「妥協」を余儀なくされ、繰り延べ税金資産の見直し時期を「検討」にするなど、いったん強硬姿勢を弱めたが、11月10日のテレビ番組では「(繰り延べ税金資産)は、何らかの形で解決しなければならない。速やかに検討して結論を出していく」と述べている。
 また、「ワシントン・コンセンサス」からの圧力も止まっていない。
 11月10日、日米欧の銀行監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は、2006年末から銀行に適用する自己資本比率の「新BIS規制」案を各国に提示した。リスクの大きい資産を抱えるほど強い自己資本を求めるしくみで、実施されれば、日本の大手銀行だけを狙い撃ちする内容になっている。
 現在の国際業務を行う銀行に義務づけられている「BIS規制」、すなわち八%の自己資本比率も、もともと八%という数字に何の根拠もなく、80年代後半、世界のトップに君臨していた日本の銀行の伸長を抑えようという米国の意図に英国も同調して設けられたものである(エサン・カプスタイン・米国外交問題評議会・主任研究員)。
 もともとバーゼル銀行監督委員会には、米国の意向(「ワシントン・コンセンサス」)が強く反映されてきた。わざわざ、この時期に「新BIS規制」案を発表すること自体、日本の銀行への最も強いプレッシャーであり、「ワシントン・コンセンサス」の日本の銀行支配への強い決意のあらわれとみるべきではないだろうか。
* *
 政府の不良債権処理策はすでに失敗してきた。今回の「加速策」は、経済運営の舵取り不能に陥った小泉内閣が、米国の言いなりになって、失敗した道をさらに暴走するようなものである。
 不良債権とは、裏を返せばいま現に生きている企業であり、その七割はこの不況のもとで歯をくいしばって必死に頑張っている中小企業である。家族を抱え、そこで働く人も何百万人といる。なぜ日本国民が、こんな愚かな内閣と米国金融資本の儲けの犠牲にならなければならないのか。
 今回の「加速策」の本当のねらいを広く国民に知らせ、断固として阻止するために全力をつくしたい。
戻る▲