● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

「公共事業費の半減にむけた検討課題」(「前衛」99年10号)
国民本位の公共事業への転換と中小建設業の受注、雇用確保にむけて
 いまほど公共事業のあり方にたいする批判が強まっているときはない。ゼネコン奉仕のムダな大型公共事業、国・地方自治体の財政危機をまねくまでに膨張した公共事業、そしてダムや河口堰(ぜき)、干潟の埋め立てなど自然破壊の公共事業にたいする批判である。
 日本共産党は、財政再建と環境保全・生活基盤重視の立場から、公共事業費の計画的縮減と生活密着・福祉型への転換を主張してきた。いっせい地方選挙でも、この党の主張は多くの有権者の共感・支持をよびおこした。
 一方で、「この不況のときに公共事業を減らしても大丈夫か」、あるいは「中小建設業者の仕事や雇用はどうなるのか」という心配や質問もよせられている。
 本稿では、景気対策としての公共事業をどう見るか、また事業の縮減にむけた課題について考えてみたい。
 
一 公共事業は「景気対策」として有効か
 
1 総選挙と公共事業の積み増しの動き

 昨年一一月の「緊急経済対策」に盛りこまれた公共事業の大半は、九九年度にくりこされた。また今年度に予定された公共事業も、年度前半に大幅な前倒しがおこなわれている。政府全体の四月末契約額は八兆三三一九億円となり、八七年度以降では最高額となった(大蔵省発表)。とくに大手ゼネコン五〇社が、四月で前年同月比五八・八%増と大幅に受注をふやしている(「月例経済報告」七月一三日付)。
 しかし、今年度下期の工事量の不足を懸念する業界団体は、公共事業のさらなる積み増しを要求している。六月九日におこなわれた自民党と全国建設業協会の懇談会では、協会の銭高会長が補正予算による公共事業の追加を求めたのにたいし、自民党の森幹事長は「先行きに不安があれば思いきった施策を講じていきたい」とのべ、補正による積み増しを約束した(「日刊建設工業新聞」六月一〇日付)。
 総選挙をにらみ、第二次補正予算での公共事業積み増しの動きが活発化している。そのなかでも選挙対策としてとくに注目されるのは、整備新幹線事業と「地域戦略プラン」である。
 自民、自由両党でつくる整備新幹線協議会(小里貞利座長)は、総選挙にむけて地方の利益誘導をはかるため、新幹線建設事業の大幅な前倒しを求めている。すでに着工している東北、北陸、九州・鹿児島ルートに加え、未着工の北海道、九州・長崎ルートも、当初予定した工期(最長二〇年)を半分以下に短縮し、七年以内の完成をめざそうというものだ。
 そのために協議会は、九九年度当初予算にもりこまれた一六〇〇億円の大幅増を強く要求している。補正予算に計上されるか、あるいは公共事業予備費(五〇〇〇億円)を使って、増額される可能性が高い。着工区間には自民、自由両党の有力議員が多く、一般新聞も「総選挙近し、票目当ての『我田引鉄』」(「朝日」五月三一日付)、「総選挙をにらんだ税金分捕り合戦」(「日経」六月九日付)など痛烈な批判を展開している。
 また今年一月に閣議決定された「生活空間倍増戦略プラン」の一環である「地域戦略プラン」も、総選挙対策の色合いが濃い。「地域戦略プラン」とは、五年間のあいだに、全国約四〇〇カ所の地域で、一地域あたり一〇〇億円、総額四兆円の公共事業をおこなうという計画だ。国と地方が事業費の二分の一ずつを負担するしくみで、国の九九年度予算における計上は二〇〇〇億円である。事業の内容は、約四〇〇の「地域割」のなかで複数の市町村が連携し、『活力とゆとり・うるおい空間の創造』(国土庁パンフレット)という主旨にそって策定することになっている。
 この「地域割」は、衆議院の小選挙区に近い規模が想定されている。もともと自民党の当初案では、この「地域割」の数は小選挙区と同じ三〇〇だった(都・建設局幹部談)。自民党建設部会でも山本有二部会長が「与党議員の強みを最大限に生かせる新たな戦略だ」と出席議員にハッパをかけている(「朝日」一月三〇日付)。
 六月一〇日、実際に認定されたプランは四六〇件にのぼった。各プランとも、中身の大半は道路や施設建設など従来型の公共事業を寄せ集めたものとなっている。たとえば、愛知県では、プランにもりこんだ二一五事業のうち、新たな事業はたった二つで、ほとんどの事業が道路建設や区画整理など、すでに地方計画に入っていた事業ばかりである。さらに各県のプランを地域別に見てみると、小選挙区ごとにバランスよく振り分けられているのがわかる。総選挙にむけて、公共事業のばらまきを意図したものと考えられる。
 
2 積み増しは景気の回復に役立っているのか

 公共事業の積み増しは「景気対策」を口実におこなわれる。公共事業が本当に景気の回復に役に立ってきたのかを、あらためて検証してみたい。
 政府・自民党は、公共事業の日本経済にたいする「下支え効果」を強調する。その根拠として、公共事業のGDP(国内総生産)押し上げ効果、生産誘発効果(生産の活発化)、就業誘発効果(雇用の拡大)などをあげている(経済企画庁資料「公共工事の景気波及効果について」)。

 〔公共事業とGDP〕
 とくに強調されるのが公共事業のGDP押し上げ効果である。表1は一九八八年度から九七年度までのGDP(国内総生産)の実質成長率と、各需要項目が成長に寄与した度合をグラフにしたものである。折れ線グラフが成長率の推移を、棒グラフは成長率への寄与度を、民間需要、公共事業(公的固定資本形成(注))、公共事業以外の公的需要(政府最終消費支出など)、純輸出(輸出と輸入の差)に分けてしめした。
 政府は、九二年八月から九八年一一月のあいだに、「景気対策」として約六四兆円の公共事業の積み増しをおこなった。六四兆円といえば、ほぼ国債費をのぞいた国の歳出予算の一年分に相当する。
 グラフに重ねあわせて見ると、公共事業の積み増しは九二年度、九三年度のGDPの引き上げに働いたものの、九四年、九五年度については、三回で合わせて二三兆八〇〇〇億円もの金額が投入されたにもかかわらず、九五年度の若干の寄与をのぞいて、それに見合う押し上げ効果があったとはいえない。とくに九五年九月の一二兆八〇〇〇億円の公共事業積み増しは、その執行による効果が九六年度にあらわれるべきだが、むしろマイナスの寄与度になっている。
 吉野直行慶応大学教授は、財政支出がGDPにあたえる効果について、次のようにのべている。
 「財政支出乗数(財政支出の拡大がGNPを上昇させる効果)そのものが、プラザ合意(八五年)以前は3以上あったものが、その後急落し、最近では0・98〜45にまで落ち込んでいる」(吉野直行・中島隆信『公共投資の経済効果』日本評論社、一四一ページ)
 公共事業のGDP押し上げ効果は明らかに低減しており、一時的かつ強引にGDPを押し上げることはあっても、本当の景気の回復にはつながらない。表1から読みとれることは、GDPの伸びを真に保証するのは、公共事業の拡大ではなく、民間需要の回復だということである。
 六月に発表された九九年一〜三月期のGDP・季節調整値は、前期比一・九%増となり、6四半期ぶりのプラスとなった。しかし、国民のなかに景気が上向いてきたという実感はない。
 それはこのGDPの伸びのおもな要因が、大型補正予算による公共事業の一〇・三%の増加にあるからだ。一般新聞も「成長の要因は公共投資の増加によるところが大きい。いわば政府が力ずくで押し上げた『高成長』なのである。……経済活動の主役はあくまで民間である」(「朝日」六月一二日付社説)、「民需の自律的回復にはほど遠く、実態は景気対策の政策効果によって強引に引き上げられた姿が浮かび上がる」(「読売」六月一二日付)と冷ややかな見方をしている。

 〔民間需要の回復なしには公共事業の効果なし〕
 就業誘発効果、生産誘発効果という点でも、公共事業の追加が日本経済全体に寄与したとはいえない。九二年度から九八年度まで、完全失業率、家計消費支出の伸び率、民間設備投資の伸び率は、いずれも悪化の一途をたどっている。この間おこなわれた六四兆円もの公共事業費の投入が全体の雇用や消費、民間投資の増加に結びついた形跡はあらわれていない。
 一般に、公共事業が消費を刺激し需要や雇用をよびおこす効果(経済波及効果)は、不況期ほど低くなるといわれている。
 このしくみを小野善康大阪大学教授は次のように説明している。
 「公共投資の経済全体への波及効果は、(公共事業に従事し所得を得た)人々が、受け取った所得のうちどの位の割合を、消費に回すか(消費性向)にかかっている。各段階で所得を受け取った人が、その所得を消費に回す割合が大きければ大きいほど、次の段階への需要が大きくなって乗数が大きくなり、最終的な景気刺激効果も大きくなる。……ところが不況期には、人々は将来に不安を抱えて消費意欲が萎え、貯蓄意欲が高いため消費性向は小さい。……不況期は乗数効果のもっとも効かない時期である」(小野善康『景気と経済政策』岩波新書、四六ページ)
 「経済白書」(九八年版)も、公共事業の景気波及効果について次のようにのべている。
 「公共投資が短期的に民間需要を刺激する効果は、八〇年代までは大きくかつ速やかに現れていたのに対し、民間部門の自律的回復メカニズムが弱まった九〇年代には、その効果は減殺され小さくかつ緩やかにしか現れていない」(「白書」二四八ページ)
 民間需要が落ち込んでいるときに、いくら公共事業を積み増ししても、景気の回復には役立たないことを政府自身が認めている。

 〔公共事業の大型化・機械化と下請たたきも効果減少の要因〕
 また、現在の公共事業のあり方そのものも、経済波及効果を低くする要因となっている。いまの公共事業の大部分は大型化・機械化しているため、中小業者や建設労働者にあまり仕事がまわらない。大手ゼネコンや鉄鋼、セメント、重機など一部の大企業と、地方の中堅ゼネコンだけが潤うしくみとなっている。
 全国出稼組合連合会の細谷昭男会長は、「土木工事は今や重機中心であまり人手が要らない。発注量がふえても雇用増にむすびつかない」と指摘している(「日経」一月二四日付)。後述するように公共事業における中小業者の受注機会・雇用効果は以前にくらべて大幅に減少している。
 しかも、現場では「半値八掛二割引」という、すさまじい低単価が押しつけられている。さらにゼネコン自身も、バブル期にかかえこんだ不良資産への対応を口実に、主要一〇〇社だけで一万三六〇〇人の職員を減らす(前年比六%減)という、過酷なリストラをすすめている(帝国データバンク調べ)。いくらゼネコンの受注をふやしても、景気の回復にはつながらない。

 〔経済効果のない無駄な公共事業〕
 小野氏は、経済効果への過信が無駄な公共事業を生む原因の一つになっていることも指摘している。
 「『穴をほって埋めるだけでも(公共事業は)意味がある』というケインズの誤った一言は、その後の、政治家によって都合よく解釈され、自己の選挙区へのバラマキの根拠となった。公共投資をすれば何でも景気は上向くと思えば、その使い道を吟味しない。ただ公共事業を増やせばいいのだから、我が村に農道空港を、我が港の護岸工事を、ということになる。有力政治家の地元で、あまり意味のない公共事業が多くなるのは、実際にも広く観察される現象である」(前掲『景気と経済政策』、四九ページ)
 利用頻度が少なく赤字を累積するような無駄なハコ物や道路をいくら建造しても、民間需要の拡大に役に立つ経済効果が生まれないのは自明のことである。
 吉野氏は、ムダな公共事業の増加が公共投資の経済効果を減少させている点について、つぎのようにのべている。
 「社会資本の限界生産力(生産要素を一単位増やしたときに生産がどれだけ増えるか)は、第一次オイルショック以前では上昇しているものの、それ以降は減少の一途をたどっており、公共投資が非効率な部門へ配分されている可能性が強い」「社会資本整備の効果の差は社会資本が民間資本や労働に利用される度合いによって生み出されている…今後は、民間に利用されるような社会資本を整備することが効果的だということである」(前掲『公共投資の経済効果』、三二、七四ページ)

     *   *

 以上みてきたように、政府自民党がすすめている従来型の公共事業の積み増しは、現在の不況を打開するための処方箋(しょほうせん)としては、まったくの的はずれといわなければならない。
 いまの不況の主要な原因は、「経済白書」(九八年版・三ページ、「景気停滞が長びく日本経済」)も指摘するように、個人消費や住宅投資、設備投資など民間需要の落ち込みである。政府・自民党が民間需要を直接、回復する手だてをまともにとらず、ゼネコンや一部の大企業のために、七年間で国家予算一年分にも匹敵する公共事業の大盤振る舞いをつづけてきたことは、国民にたいする背任行為といっても過言ではない。
 いま重要なことは、民間需要の回復に直接つながる施策を急いでおこなうことである。とりわけ個人消費の回復のために、消費の拡大に直結する消費税減税をおこなうこと、介護制度を充実し年金・医療の改悪をとりやめて国民の将来不安をとりのぞくこと、リストラを規制し雇用不安をなくすことが急務になっている。
 
二 公共事業費の規模半減を長期目標にその計画的実現を

 今年一月二一日、衆議院本会議の代表質問において、不破委員長は「浪費的な性格の歳出について思いきった削減をおこなうこと、とくに公共事業については、その規模の半減という長期目標を定め、年度を追って計画的にその実現をやりとげること」を、政府に求めた。巨額の財政赤字をうみだし、社会保障費など国民生活予算を圧迫するまでに膨張した公共事業費を縮減していくことは、二一世紀の国づくりにとって不可欠の課題となっている。

1 公共事業費の半減をめざす必要性

 「半減」という長期目標を設定する必要性は、次の二つの点にある。

 〔財政再建〕
 第一に、財政再建のためである。
 表2にしめすように、公共事業の財源の約六割が借金(公債発行)、約三割が税金となっている。借金総額が六〇〇兆円(九九年度末)にものぼる国・地方の財政危機をもたらした最大の元凶は公共事業費の拡大である。
 岩波一寛中央大学名誉教授は、国・地方自治体の財政赤字の構造要因を分析し、その財政赤字の最大の原因が、世界に類のない大規模な公共事業費による歳出総額の膨張にあることを解明している(『日本財政の改革』新日本出版社および『経済』八月号参照)。さらに『経済』八月号の垣内亮、橋本正二郎論文は、公共事業費などの削減による財政再建の道すじを明らかにし、次のようにのべている。
 「(公共投資)五〇兆円のうち、国・地方の財政負担を四〇兆円としても、その六割は借金であるから、これだけで単年度赤字(GDP比)を五%程度膨らませていることになる。逆にいえば、国・地方の借金相当分である約二四兆円の公共投資を削減することによって、単年度の財政赤字は半減できるのである」
 国・地方の債務残高を少なくともGDP比で減少に向かわせ、財政再建の展望をきりひらくためには、公共事業費を現在の半分程度まで縮減することがどうしても必要になっている。

 〔公共事業費を異常に膨張する以前の水準へもどす〕
 半減をめざす第二の理由は、公共事業費の異常な膨張を是正して、それ以前の水準へもどすということである。
 公共事業は八〇年代後半から、異常な速さで膨張をはじめた。
 表3は「行政投資額(注)」の推移である。八五年度が二六・五兆円だったものが、年々急増して九三年度にはじめて五〇兆円を超えた。以降、消費税増税や社会保障改悪などの国民負担を増大させながら、公共事業費だけは聖域化し、五〇兆円レベルを維持している。バブル以前の八〇年代後半と比較すると、公共事業費がほぼ倍加していることがわかる。
 日本の公共事業費は、二つの要因で膨張した。
 一つは、米国の圧力である。内需拡大を求める米国の要求で、九〇年に一〇年間で四三〇兆円の公共投資をおこなう「公共投資基本計画」が策定された。さらにこの計画は、九四年の村山首相の訪米後、六三〇兆円の規模に拡大された(その後、期間は九五年度から二〇〇七年度までの一三年間に延長)。政府が毎年五〇兆円レベルの公共事業費を維持しようという背景には、この「公共投資基本計画」がある。
 「公共投資基本計画」における公共投資額とは、公的固定資本形成に用地費・補償費などを加えたものをいう。経済企画庁が発表している九五年度実績をもとに推計すると、九九年度末での実施見込み額は約二五〇兆円である。残り三八〇兆円を二〇〇七年度までの八年間でおこなうとすると、毎年四七・五兆円の公共事業をつづけていかなければならないことになる。
 公共事業費が膨張してきた二つめの要因は、バブルの崩壊後、民間工事の受注が落ち込んだゼネコンを救済するためである。
 表4に建設投資の十年間の推移をしめした。八九年度と九八年度を比較すると、民間投資が約一〇兆円落ち込んだ分を、そっくり政府投資(注)がカバーしている。
 建設政策研究所の辻村定次専務理事は、有価証券報告書の集計にもとづき、公共事業がゼネコン救済のために拡大した事実を次のように指摘している。
 「ゼネコン上位三十社合計の九〇年度の公共工事完成高が三・八兆円に対し、九六年度は五・六兆円と一・七兆円増加している。これに対して民間工事は九〇年度一一・九兆円であったのに対して、九六年度は一〇・二兆円と一・七兆円落ち込んでいる。つまり、民間工事の落ち込みを公共工事でしっかりとカバーし、官民トータルではバブル期と同程度の完成工事高を維持している」(『経済』九八年八月号)
 さらに見ておかなければならないのは、公共事業の受注を増やしたのは大手ゼネコンだけではないということだ。資本金一億円以上の企業(事業所数一五〇六、法人企業全体の〇・八%)も受注率を、九〇年度の四三・九%から九七年度の五三・二%に増加させている(表4・折れ線グラフ)。この背景には九四年一月に国会で可決され、九六年に実施された小選挙区制がある。小選挙区制が、与党議員・候補者と地場ゼネコン(地元の総合請負企業)との公共事業をつうじた関係を、それまで以上に強めさせたと考えられる。
 米国による外圧とゼネコン救済という、国民の要求とはまったく無関係な二つの要因で二倍にも膨らんだ公共事業費を、元の水準にもどすのは当然の方向である。
 
2 公共事業費の半減と社会資本整備

 公共事業費を現在の半分に縮減したとしても、必要な社会資本の整備は十分可能である。
 表5は日本と欧米諸国の公共事業費を比較したものである。日本の公共事業費はGDP比で欧米諸国の数倍の水準になっている。
 ところが、下水道や、公園など生活基盤の整備は日本のほうが遅れている。建設投資に占める土木投資の比率も日本が異常に高い。生活基盤よりも産業基盤の整備に傾斜した日本の公共事業の特徴が読みとれる。
 宮本憲一立命館大学教授は、日本が長年にわたり世界一の公共投資をしてきたにもかかわらず、国民生活が豊かにならない原因を、「社会的生産手段優先―社会的共同消費手段不足の法則性」にあることを解きあかし、成長経済における現代的貧困を定義した(宮本憲一『社会資本論』有斐閣)。
 さらに宮本氏は、近著のなかでつぎのようにのべている。
 「公共事業が産業成長政策として発展したことが日本的特徴ですが、近年では景気対策としての性格をもっています。このため国民生活のニーズとむすびついてではなく、財界や支配政党の要求が先行するのです。これが社会資本のムダや浪費の原因となっています」(宮本憲一『公共政策のすすめ』有斐閣、一七三ページ)
 高度成長期の産業基盤整備中心から、近年の無駄な大型プロジェクト中心へと変質してきた日本の公共事業のあり方そのものが、生活基盤の整備をいっそう遅れさせている。
 現在の公共事業費を半分にしても、GDP比ではまだ欧米諸国の二〜三倍の水準である。日本の約二五倍の国土面積、二倍の人口をもつ米国にくらべても、二・五倍の公共事業費となる。無駄な大型開発をやめ生活基盤中心にきりかえれば、必要な社会資本を充実する財源としては十分である。

*注  公共事業費をあらわす統計には次のようなものがある。

三 公共事業費の半減と中小建設業の受注、雇用
 
1 八五年モデルの検討

 公共事業費の半減をめざすうえで、地域経済の振興に大きな役割をはたす中小建設業の受注と全体の雇用の確保には十分、留意しなければならない。公共事業費が現在より半減すると、中小建設業の受注や雇用がどうなるのか。具体的なモデルを使って検討してみたい。行政投資額五〇兆円の半減に近いのは、八五年度の二六・五兆円(表3)である。また八五年度は、先にあげた公共事業費を異常に膨張させた二つの要因がはたらく以前の段階である。
 八五年度の建設産業と公共事業の概要、受注や雇用の状況がどうなっていたかを見てみよう。
 次ページの表6は、八五年度の建設投資と公共事業の概要、受注・就労状況を、九六年度と比較したものである。行政投資額のB欄は、行政投資額から用地取得費等(投資額全体の約二〇%とした)をのぞいた事業費、C欄は建設投資額、D欄は「公共工事着工統計」で集計された工事費の総額である(「公共工事着工統計」は限定された対象の調査で、公共事業全体が網羅されたものではない)。

 〔激減する中小建設業の公共事業受注〕
 「公共工事着工統計」における企業規模別の受注率をしめしたのが、E欄である。資本金一億円以上のゼネコンの受注率は八五年度の三五・五%から九六年度の五二・三%に大幅に伸びているのにたいし、資本金一〇〇〇万円未満と個人業者の受注率は、一五・六%から一・〇%へと極端に減少している。
 公共事業全体での受注額を推計するために、B欄の用地取得費等をのぞいた公共事業費にそれぞれの受注率をかけたのが、E欄のカッコ内の金額である。資本金一千万未満と個人の中小業者の受注額は八五年度が三・三兆円、九六年度が〇・四兆円となる。行政投資額が半分に近い八五年度のほうが、九六年度よりも八倍以上の受注額になっている。
 この背景には、工事規模の大型化がある。表7は八五年度と九六年度の工事の規模別構成を比較したものである。五億円以上の工事が八五年度は全体の一三・五%だったのにたいし、三一・八%と倍以上に増え、反対に五千万円以下の工事が激減している。公共事業がゼネコンの受注に有利なように大規模化してきた結果といえる。

 〔減少した公共事業の雇用効果〕
 雇用の状況はどうか。「公共工事着工統計」における八五年度ののべ就労者数は二億七七三六万二〇〇〇人、九六年度は二億四五六七万六〇〇〇人となっている(表6・G欄)。年間就労日数を二三〇日とすると、それぞれ一二〇万六〇〇〇人、一〇六万八〇〇〇人が就労したことになる(H欄)。しかし、この数字はそれぞれの年度の公共事業全体を網羅したものではない。そこで、全体での就労者数を推計するためにB欄の公共事業費に換算すると、公共事業全体における就労者数は、八五年度が二二九万人、九六年度が二五六万人となる(I欄)。八五年度から九六年度まで公共事業費がほぼ倍加しているにもかかわらず、就労者数は約二七万人、一割程度しか増えていない。
 公共事業が増えてもそれに比例するだけの雇用が増えない原因は、ゼネコンのために大型工事を増やしてきたこと、そして大型工事が施工の機械化・自動化により雇用効果を激減させてきたことにある。
 表6のF欄は、公共工事着工統計における、工事費一〇〇万円当たりの就労者の数である。八五年度の就労者数二五人から九六年度は一五人に、四〇%も減少している。
 北海道大学の椎名恒助教授は、「公共工事着工統計」を詳細に分析し、大規模工事ほど雇用効果が少ないこと、事業の大型化が公共事業の雇用機能を大幅に減少させていることを、次のように明らかにしている。
 「工事規模五百万円未満の小規模工事を取り出せば、工事費百万円あたりの労働者数は十八人なのにたいし、工事規模五千万円以上一億円未満工事では十四・一人、五億円以上の大規模工事では八・三人で、小規模工事の半数以下に低下する。工事規模の大規模化が公共事業の雇用効果にたいし否定的な影響を及ぼしている」(『労働運動』二月号)
 表8は、建設投資と就業者数の関係をグラフにしたものである。
 建設投資総額は八五年度の四九・九兆円から九六年度の七八・一兆円に、建設産業就労者数は五三〇万人から六七〇万人へと、それぞれ増加している。しかし公共事業就労者は一割程度しか増えていない。この間の雇用の増加は、公共事業というより、むしろ民間建設投資の増加によるところが大きいといわなければならない。
 逆にいえば、公共事業費を現在の半分にちかい八五年レベルにもどしても、公共事業の中身を大型事業から中小の規模に変え雇用効果を高めていけば、八五年と九六年の物価上昇を考慮にいれても、雇用の減少は現就労者の一定程度に抑えることができる。
 
2 公共事業の半減と中小建設業の受注、雇用

 八五年モデルの検討からいえるのは、公共事業費を縮減しても、公共事業の中身をゼネコンむけの大型事業から中小規模の事業にきりかえれば、受注率が高まり中小建設業者の元請仕事を大幅に増やすことができる、雇用についても、雇用効果が高まることで、全体として雇用の減少を最小限に抑えることができる、ということである。
 たとえば中小建設業の元請受注を増やし雇用を確保しながら、公共事業費の総額を一割(五兆円)を削減する(用地費等で一兆円、事業費で四兆円減らす)方法を試算してみよう。
 表9は、九七年度の公共事業の工事規模・企業規模別の受注率とそれぞれの受注額の推計である。大型工事ほど大企業が受注しているのがわかる。たとえば五億円以上の大型工事は、一年間で約一二・八兆円が支出され、その九二%を資本金一億円以上のゼネコンが受注している。
 また表10は、九七年度の公共事業の一〇〇万円当たりの就労者数(のべ人数)を、工事規模別にしめしたものである。大型事業ほど雇用効果が低く、中小規模の事業ほど高いことがわかる。
 中小業者の受注と雇用を確保するためには、規模五億円以上の工事を七兆円、五億円未満〜一億円以上の工事を一兆円、合計で八兆円削減し、逆に一億円未満〜五千万円以上の工事を一兆円、五〇〇〇万円未満〜一〇〇〇万円以上の工事を一兆円、一〇〇〇万円以下の工事を二兆円、合計で四兆円増やせばよい。表9、表10にもとづく煩雑な計算過程の記述は省略するが、この方法によって、公共事業費を(用地費等の一兆円と合わせ)五兆円削減したうえで、資本金五〇〇〇万円未満の中小企業と個人業者の仕事を約二・六兆円増やすことができる。全業者数の九七%をしめるこの層の仕事を増やすことは、景気対策としても重要である。雇用者数もほぼ現状を維持することができる。削減した五兆円は、福祉・生活関連予算や財政赤字の削減にまわすことが可能となる。
 NGO「二十一世紀環境委員会」が発表した全国のムダな巨大公共事業一〇〇プロジェクトだけでも、事業費総額が八兆円をこえる(岩波ブックレット四七六号)。このほかにも、不要不急の開発プロジェクトや、住民要求とかけ離れたハコ物建造物の新設計画はたくさんある。これらの大型公共事業を大幅に削減すれば、中小規模の事業を増やすだけでなく、介護保険の基盤整備など福祉・生活関連予算や財政再建のための財源を生みだすこともできる。
 しかし、さらに公共工事を精査し、大型事業を中心に実際に半減するまで全体規模を縮減する段階では、八五年モデルの検討で見たように、中小業者の公共事業の元請受注は現在より増やすことができるが、中堅企業やその下請中小業者の受注と雇用には、ある程度の減少が生じる。この問題を解決するには、公共事業から民間の仕事へ受注と雇用の主体を移行していけばよい。公共事業費の縮減と同時並行で、次の項でしめすような民間建設投資の回復をすすめる必要がある。
 大型事業を中小規模の事業にきりかえることは、米国の外圧やゼネコン奉仕のための公共事業から、国民が本当に必要とする生活基盤の整備を中心とした公共事業に転換することを意味する。
 そのために、大型事業推進のおおもとになっている「公共投資基本計画」や「全国総合開発計画」を廃止し、必要な社会資本整備と環境保全、住民参加を明確にした公共投資へあらためていかなければならない。その際、政・官・財癒着や談合問題をなくし、適正な工事価格を実現することはいうまでもない。
 
3 民間建設需要の回復のために

 前述のように、公共事業費の半減段階で生じる中堅企業とその下請業者の受注減、そして雇用の一定の減少を補てんするためには、民間建設需要の回復が不可欠となる。
 建設投資全体に占める民間建設投資の比重と役割は大きい。表11は、九八年度の建設投資の内訳をしめしたものである。建設投資は政府建設投資と、民間建設投資に分かれ、さらに民間建設投資は、住宅と非住宅投資に区分される。

 〔民間非住宅投資・・中小企業の設備投資の回復を〕
 民間非住宅投資とは、民間企業が工場、事務所などの構築物へ投資した金額をあらわし、建設投資全体の約二五%を占める。
 民間非住宅投資に機械・装置などへの投資をくわえたものが、ほぼ企業の設備投資額となる。したがって、企業の設備投資の状況が、民間非住宅投資に反映される。
 次ページの表12は企業の設備投資動向をしめしたものである。とくに中小企業の設備投資が落ち込んでいる。この要因を、経済企画庁は「需要の低迷による収益の悪化」と「金融機関の貸し渋り」にあると分析している(「日本経済の現況」九九年版)
 中小企業の設備投資が回復しなければ、民間非住宅投資は増えない。いま必要なことは、銀行への公的資金投入や「産業競争力強化」などの大銀行・大企業支援の政策ではなく、十分な融資や経営支援をふくめた中小企業に直接、光をあてた政策である。

 〔住宅建設の促進にむけて〕
 民間住宅投資は建設投資全体の約三〇%を占める(表11)。GDPにしめる比率も四・四%(九七年度)と大きい。
 さらに住宅投資は経済波及効果も高い。表13は、二九・五兆円の住宅投資が他の産業部門で二四・七兆円の生産を誘発し、全体の生産誘発額が約二倍の五四・二兆円に及ぶことを図解にしたものである。
 ところがこの住宅投資も、長びく不況のなかで、表14のように低迷をしている。九七年度の住宅着工戸数の大幅な落ち込みについて「建設白書」(九九年版)は、次のようにのべている。
 「平成九年度は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減、低金利等を背景とした需要の先食い、所得の伸びの低迷やリストラ等による雇用不安、景気動向の先行き不透明感等により大きく落ち込んだ」(一九三ページ)
 さらに九八年度は、一一八万戸に低落し、八三年以来はじめて一二〇万戸を割り込んだ。今年三月の住宅着工戸数は、住宅金融公庫の融資金利の上げ幅抑制などにより、二七カ月ぶりに前年同月比で増加となったが、四月は微増、五月はふたたび減少となっている。
 国民の住宅購入意欲にブレーキをかけているのは、「建設白書」も指摘しているように、所得の伸びが低下していることに加え、雇用不安が広がっているためだ。さらに年金改悪など老後への不安も、住宅の購入に二の足をふませる原因になっている。
 また消費税も、住宅取得時の重い負担となっており、購入者の関連消費(家具の買い替えなど)を減少させたり、あるいは値引きを要求された業者はその分身銭をきらざるをえないという状況をまねいている。
 住宅建設を促進するためにも、消費税の減税をはじめ、国民の将来不安をなくすなど個人の購買力を回復する方向での不況打開策が必要である。
 さらに、欧米に比較して貧弱な日本の住宅政策を抜本的にあらため、国民のための住宅政策を発展させていかなければならない。日本共産党はすでに『新・日本経済への提言』のなかで、「勤労者の住宅の取得・維持への支援を強める」政策を発表している(『提言』補論三項参照)。
 いま住宅産業では、大手住宅メーカーの市場独占が進行し、地域の中小工務店の受注を圧迫している。またメーカーによる工場生産・部材組み立て型の住宅建設は、雇用効果が低い。地域経済への波及効果を考えれば、高い技能をもち地域に根づいた地元の中小建設業を振興する方向での住宅建設の促進が重要である。
 
4 地方の経済構造の是正

 公共事業の縮減と雇用の問題を解決するためには地方の経済や産業の構造を是正していくことも必要である。
 数年前、筆者が東京土建一般労働組合にいたとき、八丈島へ地元の分会との懇談にでかけたことがあった。組合員のAさんが「公共事業がなければ、おれたちは明日から飯が食えない」と切実な面持ちで語ったのを記憶している。八丈島に限らず、全国の島嶼(とうしょ)部では、農・漁業や観光業がふるわず、道路建設などの公共事業に依存した生活を余儀なくされているところが多い。
 地方の山間部や農村部にも同じことがいえる。公共事業に雇用を依存せざるをえない状況におちいっている地方では、その地方の産業や経済のあり方を変えることなしに、公共事業の削減はすすまない。
 この点については、中山徹奈良女子大助教授の提言が重要である。中山氏は『地域経済は再生できるか』(新日本出版社)のなかで、次のようにのべている。
 「(地方では)結局、第一次産業が急速に衰退し、そこからの離職者が建設業へ入職し、その雇用を公共事業が支えているのである」「公共事業費の削減によって、中長期的には、建設就業者が減少せざるをえない。しかし、新たな雇用確保としては、社会保障分野での雇用確保と第一次産業の振興による雇用の確保の二点が重要である」
 社会保障の事業が公共事業より雇用効果の高いことは、すでに明らかにされている(『社会保障の経済効果は公共事業より大きい』自治体出版社)。第一次産業の振興、とくに日本の農業を再建するという点では、自給率の向上と農家の経営安定をめざして、現在の農政の抜本的な転換をはかる必要がある。
 そういう意味で、公共事業費の半減は、地方の雇用のあり方や、国の産業政策の転換とも結びついた課題といえるであろう。

     *   *

 昨年の夏、第一生命保険が、全国の小学生以下の子どもたちを対象に「大人になったら何になりたいか」というアンケート調査をおこなったところ、男の子のなりたい職業の第一位は大工さんという結果がでた。前回の調査で一〇位だった大工さんが、今回トップに躍り出たということで、マスコミでも話題になった(五月一日付「毎日」ほか各紙)。
 評論家の芹沢俊介氏はこの結果を、子どもたちの「身体感覚」をえられる職へのあこがれがしめされたものと分析している(『週刊読売』五月二三日号)。いいかえれば、身体全体で「手ごたえ」を感じられる仕事ということであろう。
 東京土建一般労働組合青年部が九二年におこなった調査では、青年組合員の建設業への入職動機の一番は、「モノをつくる仕事に魅力を感じたから」というものであった。
 建設労働は身体と知恵をつかって建物というモノをつくる。労働の結果が目に見え、しかも長く残る。建設労働には、技能労働がもつモノづくりの喜びと同時に、住宅や社会資本の整備など世の中の役に立つモノをつくるという誇りと使命がある。これらが合わさって建設労働特有の魅力と社会的役割を構成している。
 しかし、最近の公共事業に限っていえば、そこでの建設労働の社会的役割に疑問がもたれることが多い。
 昨年の参議院選挙のときに九州のある県でお会いした、とび職のSさんは、数年前、国民体育大会のために新たにつくられた豪華体育館の仕事をした。その体育館は国体のあとほとんど使われていないという。「県民のお荷物になっている。いくら立派な体育館でも、子どもに自慢できる仕事ではない」といわれた。
 国民生活の向上に貢献するという社会資本整備本来の使命とかけはなれ、ゼネコン奉仕の無駄な大型事業に偏重し、異常なまでに膨張した現在の公共事業を抜本的に見直すことがどうしても必要である。真に国民の役に立つ公共事業へきりかえることにより、建設労働の社会的役割を取りもどさなければならない。子どもたちのあこがれにこたえられる建設労働にしなければならないと思う。
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