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● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

「ダム事業見直しにかんする六つの提言」(2001年7月20日(金)「しんぶん赤旗」)
無駄と環境破壊のダム事業の抜本的な見直しを求める
2001年7月19日 日本共産党国会議員団 ダム問題プロジェクトチーム
 日本共産党の筆坂秀世政策委員長が十九日発表した「無駄と環境破壊のダム事業の抜本的な見直しを求める―ダム事業に関する六つの提言」の全文は、次の通りです。

 無駄と環境破壊の公共事業の典型として、いま全国で問題になっているのが大型ダム事業です。日本共産党国会議員団が調査した全国二十二カ所のダムだけでも、事業費を合計すると三兆五千億円にもたっしており、この無駄と浪費にメスを入れることは、環境破壊をくい止めるだけでなく、国・地方の財政再建にとって焦眉(しょうび)となっています。
 党国会議員団のダム問題プロジェクトチームは、調査をふまえ、ダム事業の抜本的な見直しのために、次のような提言を行うものです。

一、欧米でのコンクリートダムからの脱却の動きと、正反対の自民党政治

 欧米では、九〇年代の初めからダムだけに頼らない利水・治水対策にきりかえ、改修ずみの河川を再び自然にもどす工事も十年以上前から始めており、河川の自然環境としての価値を大切にする方向にふみ出しています。とくにアメリカでは「川の再生」をテーマに、すでに五百をこえるダムを撤去したうえ、グラインスキャニオンなど大規模なダムも取り壊し、生態系と漁業の回復や観光振興をはかろうとしています。
 日本でも地方から新たな動きが始まっています。昨年四月、鳥取県の片山知事は治水と利水の両面から中部ダムは必要がないと判断し中止を決め、さらに、全国に先駆けて、水没する予定だった地域を対象に、河川改修と定住促進策を含む地域振興計画案を住民に提示しました。また、今年二月には、長野県の田中知事が「脱ダム宣言」を発表しました。
 依然として大型ダムに固執する小泉内閣
 こうした新しい動きが始まっているにもかかわらず、六月二十一日に国土交通省が示した「公共事業改革への取組」では、国の直轄や水資源公団の事業と、国が補助をしている事業のうち、大型ダムについては、新たに「実施計画調査」に着手することは凍結するとしたものの、すでに着手している事業は二百七十三件あり、そのうち総事業費が決まっている百五十六件の事業費は、合計で九兆円にのぼります。これらの具体的な見直しについてはいっさい言及していません。川辺川ダムなど、あくまで計画中、建設中のダムを強行しようという小泉内閣の姿勢は、コンクリートダム脱却をめざす流れを、かたくなに拒否するものといわざるをえません。

二、調査で浮き彫りになったダム事業の問題点

治水、利水など事業の目的そのものが破たん

 党国会議員団が、今回調査したダムは、そのほとんどが利水、発電、治水などをあわせた多目的ダムの形態をとっています。
 岐阜県の徳山ダムの場合、岩屋ダムなど都市用水の既存の供給力だけでも完全に供給過剰になっていたのに、長良川河口堰(かこうぜき)などの分が加わり、その上さらに徳山ダムの新たな供給力も合わせれば、需要実績の倍を軽く超えます。だれの目にも、水余りは明らかです。
 熊本県の川辺川ダムや秋田県の成瀬ダムも農業用水としての利用目的はなくなり、北海道の平取ダムでも苫小牧東部(苫東)開発の破たんで工業用水の利用目的が失われています。神奈川県の相模大堰も水需要は見込めず、愛媛県の山鳥坂ダムでも、建設省(当時)自身が「渇水対策ではない」と言明したように、計画量は実際とかけ離れています。
 実際には水需要がないにもかかわらず、国や県がダム建設をすすめるためのよりどころにしているのが「水資源開発基本計画」(フルプラン)です。国土庁(当時)が一昨年、策定した「全国総合水資源計画」(ウォータープラン21)は、一九八七年策定の前回の「計画」(ウォータープラン二〇〇〇)よりも、上水と工業用水を合わせた都市用水需要を五分の一に、大幅に下方修正しました。ところが、ダム建設の“根拠”となる「水資源開発基本計画」(フルプラン)の方は、いっこうに下方修正がされていません。ここにも、ともかくダムをつくりたいという国土交通省の姿勢がよく表れています。
 利水が批判を浴びると、次は治水を持ち出すというのが、どこでも“無駄なダム”をすすめるパターンにさえなっています。たとえば富山県の利賀ダムは、ダムの耐用年数が百年だというのに百五十年に一度の洪水対応という大規模化が図られています。治水の目的さえも費用面や環境面から、ダム建設でやることの妥当性に疑問が指摘されていて、なかには、新潟県の清津川ダムのように、県が治水目的そのものを計画の見直し点として挙げたり、兵庫県の武庫川ダムでは、ダムでは水害が防げず川の拡幅や浚渫(しゅんせつ)などの河川改修こそ必要だと指摘されています。こうした実態をみると、多くの場合、もはや多目的ダムではなく“無目的ダム”になっています。

ダムが新たな災害を招く危険性

 ダムの基盤となる地盤に問題があり、建設することでむしろ危険が増すと指摘されるダムもあります。長野県の浅川ダムでは、建設予定地一帯が水を含むと劣化する裾花(すそばな)凝灰岩であり、地滑りが起きやすいという地盤の悪さに、浅川ダムの建設を口実に付け替えられた道路の場合、岩盤への負担を最小限にするとして、当初のダム事業費(百二十五億円)自体を上回る建設費(百四十億円)をかけてループ橋を建設したほどです。
 地盤の悪さは、愛知県の設楽ダムでも問題になっており、岐阜県の徳山ダムも、ダムの堤体から活断層が一・八キロメートル離れた所にあり、貯水してできるダム湖を横切る形になります。大阪府の安威川ダムでは、馬場断層など活断層が多数走っており、大阪府の調査自身が「ダムサイトには全部で八系統二十四本の断層が分布しており」とのべています。
 また長野県の裾花川や岡山県の新成羽(しんなりわ)川のように、大雨のさいにダムからのいっせい放流がおこなわれた結果、「ダム災害」が起きた例もあります。

住民の声を聞かず、事業を強行する異常性

 事業を一方的に住民に押しつけるやり方も問題です。岡山県の苫田ダム建設のように、事業の必要性に関する住民の疑問が払拭(ふっしょく)されないまま、事業官庁は調査に着手し、用地買収をどんどんすすめ、最後まで反対した住民には土地収用をかけるという強権的なやり方が横行してきました。
 住民が事業目的の妥当性を問う場が保障されていない状況で、土地収用委員会での論議が唯一、公の場で「公益性を問う」機会でした。ところが政府は、六月末の国会で民主・自由両党の賛成もえて土地収用法の改悪を行い、収用委員会での公益性に関する主張を制限するなど、その機会すら奪い、さらに強権的な事業の推進をはかろうとしています。

三、日本共産党の六つの提言

 日本共産党国会議員団のダム問題プロジェクトチームは、これまでのダム建設のあり方を抜本的に改めるため、次の六つの提言を行うものです。

提言1
目的を失ったダムはただちに中止し、必要な代替策と地域振興策をはかる
 利水、発電の目的を失ったダム、災害危険地域のダムについては、建設中であっても、ただちに中止すべきです。事業官庁から独立した「ダム事業見直し委員会」を国、都道府県に設置し、住民参加のもとで、治水目的のダムについても計画中、建設中のダムを再検証し、事業の中止を含め抜本的な見直しをおこなうことが必要です。
 ダム事業を中止した場合は、まず、必要性もないのに事業をすすめてきた国と県の責任を明らかにすることが重要です。そのうえで、ダム建設計画にほんろうされ苦難を強いられてきた地域住民の被害の実態にあわせて、住居の改善など個人補償の実施も必要です。またダム予定地は「どうせ水没するのだから」といって、地域産業の振興や生活基盤、公共施設の整備がおくれた状態や老朽化した状態で放置され、またダム工事優先で堤防の補強など必要な河川改修も後回しにされてきました。住民がくらし続けられるように地域の振興と再生を国と県の責任で行うべきです。

提言2
森は天然のダム…自然環境の保全を優先する
 いますすめられている多くのダムの建設計画は、生態系の頂点に立つオオタカ、クマタカ、イヌワシなどの猛きん類の生息を脅かすもととして問題になっています。岐阜県の徳山ダムでは、水資源開発公団が当初、いないといっていたクマタカやイヌワシの生息が確認され、公団自身が設置した「徳山ダム ワシタカ類研究会」や、自然保護協会による工事の全面中断や計画の見直しの提起に耳をかさず、いまも「工期を遅らせることはできない」として工事が続けられています。
 ダムが引き起こす環境破壊は、上流域だけの問題ではありません。ダムを埋める土砂が、下流域にも深刻な問題を引き起こします。現在、国土交通省と水資源開発公団が管理中のダム八十三カ所のうち、すでに堆砂の計画容量をこえたものが二つ、二倍以上のスピードで堆砂が進行しているダムが十六、三倍以上のダムが九あり、設計どおり百年もつのは半分にも満たない三十四ダムだけです。ダムの下流には土砂の供給が行われなくなり、生き物の豊かな生息・生育場所であるなぎさや干潟が、やせ細っていくという事態も起きています。
 もっと森林の多面的な機能を生かした河川行政に取り組むべきです。森林は、浸透性や保水性の大きい表層土の存在を通して、降雨時の流出を緩和させ、洪水時には流量のピークを抑えるという洪水調節機能を持つとともに、水源涵養(かんよう)機能をもっています。また土砂の流出を防止するという国土保全機能ももっており、川の濁りを抑え、浄化する役割を果たしています。こうした機能を発揮させるためにも、スギやヒノキなどの針葉樹林の荒廃を防ぐ造林事業や、ブナ、ミズナラ、ナラ、トチなどの広葉樹林の保全が重要です。
 そのためにも、環境アセスメントの徹底した実施と、環境保全を優先した河川行政への転換をすべきです。

提言3
河川改修や森林保全の治水対策をすすめられる支援策の強化を
 大型ダムの建設を誘導するような現在の補助金のしくみ、起債のあり方も問題です。国の補助事業に該当する大型ダムは、国費が二分の一、地方負担分もその六六%が交付税で措置され、最終的に全体の約八〇%の費用が国から手当てされることになります。
 ところが地方自治体が、自然を守るために、中小規模の改良工事で河川改修をすすめようとした場合は、基本的に単独事業にされてしまいます。また改良工事を組み合わせて「統合整備事業」として申請しそれが認可されたとしても、ダム事業より低い補助率です。これでは、地方自治体がコンクリートダムに頼らず自然を生かした河川改修を行おうとしても、財政負担が大きすぎてちゅうちょするのが当たり前です。
 補助金のあり方を見直し、治水対策は、住民と自治体で選択できるよう、河川改修や森林造成への支援を強める政策に転換すべきです。

提言4
住民の負担を明らかにし、最優先で住民の健康を守る
 水需要がないにもかかわらず利水を口実にダムが建設されれば、下流や周辺の自治体は、不要な水を押しつけられ、高い受水料を払わなければならなくなります。
 佐賀県では、嘉瀬川ダムの建設や、嘉瀬川・巨勢川・城原川・筑後川の四本の川を横断する佐賀導水がすすめば、関係の自治体の住民にさらに水道料金の値上げが襲いかかってきます。同県の城原川ダムでは、「佐賀県東部水道企業団」に加盟する十一自治体の財政がきびしく、約二百億円の負担は重いとして「水はいらない」との決議を挙げています。群馬県の八ツ場ダム・倉渕ダム、栃木県の南摩ダム・東大芦川ダム、福井県の足羽川ダムなど、自治体負担の重さが問題になっている例は無数にあります。
 こうしたダムによる自治体・住民の負担を、建設を終えてからの後始末として押しつけるのではなく、建設に着手する前に、住民に明らかにするのは、国・自治体が果たすべき当然の説明責任です。
 住民にとって深刻なのは料金の値上げだけではありません。新潟県の佐梨川ダムができれば夏場、揚水発電に繰り返し使う「くさい水」を飲むことになりますし、上水用に取水される長良川河口堰の水からは環境ホルモンが検出され、またクリプトスポリジウムによる汚染も懸念されています。霞ケ浦では、肝臓毒であるミクロシスチンや神経毒のアナトキシン(いずれもアオコに含まれる有毒物質)が水に含まれることが明らかになっており、直ちに水質の検査を行い、場合によっては除去などの対策が必要です。

提言5
計画段階から住民が参加する「河川事業評価制度」を創設する
 政府は、公共事業にたいする批判の高まりを受けて、九八年には「再評価実施要領」にもとづき設置された「事業評価監視委員会」による見直しを開始しましたが、実際に中止されたダム事業はすでに休止状態にあるものや貯水池など小規模のものばかりで、最も無駄と環境破壊が指摘されている大型ダムは一切見直されていません。
 それは、「再評価実施要領」の見直し基準が甘いため、現在進行中のほとんどの事業が対象にならないうえ、また「事業評価監視委員会」のメンバーが事業官庁による任命で、監視の役割を果たせないことにあります。
 今後の河川行政を計画段階から住民参加でチェックするため、次のような「河川事業評価制度」を提案します。
 第一に、国、地方公共団体、公団など事業官庁は、一定規模以上の河川事業についてその必要性をあきらかにしたうえで、複数の実施計画案をつくり、費用便益の妥当性、環境への影響などを自己評価し、その評価にかかわるすべての資料を公表します。
 第二に、事業官庁から提出された複数の実施計画案、自己評価書を審査するため、事業官庁から独立した第三者機関である「河川事業審査委員会」を設置します。「審査委員会」はコンクリートダムをできるだけつくらないことを前提に、財政と環境の両面で実施計画案を審査します。「審査委員会」の事務局は事業担当部局以外におき、委員は住民、学識経験者のなかから公募で選出します。
 第三に、「審査委員会」は審査にあたって、住民の意見を積極的に聴取し寄せられたすべての意見を公表します。「審査委員会」は公開で行い、提出資料はすべて公表するようにします。また、代替案が住民や学識経験者などから提案された場合は、それをふくめ審査します。これらをつうじて審議をつくし、住民の合意形成に努めます。「審査委員会」は審査の結果を事業官庁に提出し、事業官庁はその結果を尊重する義務を負います。

提言6
政官業の利権・癒着構造にメスを入れる
 ダムや道路などの大型プロジェクトは、ほとんど計画の段階から大手ゼネコンが関与し、どこが工事を担当するかは事実上決まっているといわれています。事業の受注に際し、政治家や民間企業に天下りした役人の関与が指摘されることも少なくなく、このことが当初の目的を失った事業が一向に見直されず強行される原因の一つになっています。
 また公共事業は事業に着手してから事業費がどんどんふくらみ、最終的には当初の工事費を大幅に上回るのが常態化し、ダムも典型です。当初は少なめの事業費を計上し、事業が認可をうけたあとは、設計変更という名目で野放図にゼネコンへ追加工事を発注するしくみも問題です。ダム事業における談合の疑惑もあとを絶ちません。
 無駄なダム事業をストップするためにも、企業・団体献金、ゼネコンへの天下りと談合の禁止と入札制度の改善は不可欠です。

 以上の六つの提言を実施することによって、コンクリートダムからの脱却をはかり、財政の無駄をなくして、自然環境を守れる新しい河川行政に転換することができます。日本共産党はその実現のために全力をつくすものです。
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