● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

金融危機の元凶 新自由主義からの決別
生活・雇用を守る政治へ転換を 大門実紀史さんに聞く(「経済」2009年1月号)
 世界金融危機の影響が続き、世界各国が対応を模索。日本でも景気の落ち込み、中小企業への貸し渋り、派遣労働者の大量解雇など甚大な被害に、政治はどう動くべきか。「金融機能強化法案」や投機マネー規制などの国会論戦真っ只中の大門実紀史(だいもん みきし)・参議院議員に聞きました。(編集部)

金融危機のもとで日本経済は

 アメリカ発の金融危機と景気の悪化をどうみるかということですが、わたしはたんにアメリカ主導のギャンブル的なカジノ資本主義が崩壊しただけではなく、新自由主義路線全体が破たんしたのだと思います。
 新自由主義というのは、グローバル大企業の利益を最大化させるための「構造改革」路線と金融自由主義という二つの特徴をもっています。「構造改革」路線は、人件費や社会保障の削減などで国民から所得を奪い、実体経済(とくに内需)を弱体化させました。さらに国民から奪われたお金は莫大な投機資金となり、利ザヤを求めて世界中をかけめぐったあげく、金融バブルを引き起こし、とうとう破たんした。それに端を発した金融不安が、弱体化していた実体経済に追い討ちをかけるように襲いかかってきた、これが今日の事態だと思います。

〈世界を動く「投機マネー」の仕業〉

 わかりやすくいえば、要するに、投機マネーが世界中を動き回って今回の金融危機を引き起こしたのです。投機マネーとは何かといえば、世界中であり余ったお金のことです。それではどこに余っているのか。一つは世界中の大企業です。世界中の大企業はリストラと非正規雇用を拡大し、人件費を抑え込み、余ったお金を投機に回しました。二つ目は、世界中の大銀行も人から集めたお金を人に貸さないで、投機に回す。本来、国民が受け取るべき所得が資本の側に蓄積され、投機資金に回された。それに年金基金や生命保険会社のお金も加わり、ヘッジファンドの運用だけで二〇〇兆円という膨大な額が、利ザヤを稼ごうと世界中を動き回りました。
 その投機マネーが、アメリカの「サブプライム」という低所得者むけの住宅ローンにつぎこまれ、住宅価格まで押し上げて住宅バブルを引き起こした。そのバブルが破裂したあと、投機マネーは原油市場に入り込み、ガソリンや灯油代を暴騰させた。さらには穀物市場にも入り込み、食糧まで高騰させた。投機マネーは悪さばっかりしてきたんです。こういう投機マネーの移動を自由にさせ、投資したお金を何倍にもできるようにしたのが、金融の野放図な規制緩和だったわけで、その牽引車がアメリカだったのです。
 しかしサブプライム問題は、ギャンブルのような金融自由主義の命取りになった。債券を証券化して次々と転売するシステムがゆきづまったのです。それは「リーマンブラザーズ」という投機マネーを扱う投資銀行まで破たんさせ、かれらが作り出した金融バブルそのものを崩壊させました。これで一気に金融不安が広がり、アメリカの株価全体を暴落させ、輸出中心の日本の大企業やアメリカにお金を回してきた大銀行の株も下がり、株の大幅下落が日本全体に波及しました。株が下がると大企業や銀行の資産が目減りしますし、アメリカ依存の輸出大企業の利益の減少が予想される。ばく大な内部留保があるにもかかわらず、大企業、大銀行は従前の利益を確保するためにリストラや貸し渋りをすすめ、小泉内閣以来の新自由主義「構造改革」に痛めつけられてきた国民、中小企業にさらなる打撃を与えているのです。
 つまりアメリカでも日本でも、「構造改革」と金融自由主義という新自由主義の二重の害悪がからみあって、国民生活を苦しめているのだと思います。こうした事態に対して、日本共産党がかねてから主張してきた「投機マネー」への規制や内需主導の経済への転換が、いまや世界各国共通の主張となっています。

〈新自由主義的「金融改革」の日本における被害〉

 こういう新自由主義的な「金融改革」は、今回の金融危機以前から国民に被害を与えてきました。
 第一に、貸し渋り・貸しはがし問題です。
 すでにノンバンクの商工ローンなどでは、猛烈な貸しはがしが行われています。私は、一一月一一日の国会質問(参院財政金融委員会)で、旧商工ファンドの「SFCG」の貸しはがし問題を取り上げました。同社は、契約通りに返済している借り手の中小企業四万社に対して、一方的に担保割れをしていると決めつけ、一括返済を迫りました。取り立ての方法も恫(どう)喝(かつ)や脅迫などヤミ金まがいのやり方です。被害者弁護団も提訴に踏み切り、この問題はマスコミでも大きく取り上げられました。
 SFCGの違法行為は、行政処分をふくめた断固とした処置が必要ですが、この問題の背景として、やはりこの間の金融政策のゆがみを正すことが大事だと思います。なぜ中小企業が、高金利の商工ローンから借りなければならないかというと、ふつうの金融機関が貸してくれないからです。これは最近、始まったことではない。小泉内閣時代に、金融機関の整理・統合、自己資本規制など、様々な「改革」が進められました。それを通じて、銀行からの貸し出しの基準、「ものさし」が厳しくなった。銀行は「貸し渋りはしていない。ものさしどおりやっている」といいますが、その「ものさし」そのものが、小泉内閣以前より厳しくなっているのです。加えて今回の金融危機で、ますます貸し渋り・貸しはがしがひどくなると懸念されます。
 第二は、政府の「貯蓄から投資へ」路線による被害です。
 小泉内閣以来、「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、政府あげて、国民の貯蓄をリスクの高い株式取引や投資信託などの金融商品に誘導する政策がとられてきました。しかし、今回の株の暴落で個人投資家の大多数は大損をすることになりましたし、元々、短期利益をねらう個人投資家で「勝ち組」になるのはわずか五%、あとの九五%は損をするだけと言われています。投資は自己責任とはいえ、政府が証券優遇税制などで個人の株式投資をあおった責任は問われるべきです。
 わたしが許せないのは、郵便局による投資信託の大量販売です。民営化前から、とくに地方のお年寄りをターゲットに、リスクの説明も不十分なまま「貯金より有利だよ」と言って販売されました。民営化後に販売された投資信託だけでも一兆三〇〇〇億円にもなります。しかしその価格は〇七年比で二〇〜六〇%もの下落になっています。つまり、一〇〇万円の貯金を投資信託に移されたお年寄りの貯金が半分の五〇万円になったりしているのです。民間銀行も同じことをしてきましたが、郵便局の場合、政府が直接、号令してすすめたことですから責任は重大です。

破たんした「金融立国論」の撤回を

 一一月一四、一五日の金融サミットは、おおむね金融自由化の見直し、金融機関や市場の監督・規制強化の方向が打ち出されました。しかし、具体的に実効ある措置がとられるかどうかは予断が許されません。また日本政府自身が国内の金融システムをどう是正していくのかも問われています。

〈金融機能強化法案、不動産「証券化」の問題点〉

 今回、政府が出してきた「金融機能強化法」案は、金融機関の資本増強のために予防的に公的資金を投入しようというものですが、もしも投入した公的資金が焦げ付いて、返ってこないときは国民負担になります。共産党は、公的資金の投入は借り手や預金者保護のための非常手段としてありうるが、最終損失が出た場合は、国民負担(税金)ではなく、何年かかっても業界負担で返済させるべきだという考えで、この法案には反対です。
 今回の金融機能強化法は、地域金融機関が融資にお金を回さず、リスクの高い有価証券取引を増やしてきた結果、サブプライム問題や今回の株暴落で損失がうまれ、その穴埋めをしようというもので、中小企業への貸し渋りを防ぐためというのは後付けの口実だと言えます。貸し出しを減らして、マネーゲームをやってきた。こういう金融機関の姿勢そのものが今こそ問われなければなりません。
 さらに現在、金融機関を直撃しているのが、不動産投資の失敗です。この問題は、金融機関だけでなく、不動産・建設業の連鎖倒産を引き起こし、深刻な事態を招いています。その主役になったのが、不動産ファンドと日本の不動産投資信託である「J―REIT(ジェイ・リート)」です。
 不動産に投資するファンドには外資がかなり入っていましたが、リーマン破たんの影響で資金を引き揚げ、建設、開発計画の中断による新興不動産企業などの倒産が相次ぎ、それが金融機関の不良債権を増加させています。
 J―REITとは、簡単にいうと、投資家から集めた資金をオフィスビル、マンションなどの不動産で運用し、賃貸料や不動産の売却益などを配当金として投資家に分配するしくみを証券化したもので、取引所で売買されます。一見、合理的な金融商品のように思えますが、実際の不動産取引のリスクが証券化されることによって分散され、誰が最終リスクをとるのかわからなくなるという点では、日本のサブプライム・ローンと呼んでも過言ではないと思います。J―REITは、〇七年のピーク時に比べ七三%も下落しているのです(東証指数)。これが都市部などで不動産バブルを引き起こし崩壊させた元凶の一つだと思っています
 国会質問(一一月二〇日)でも明らかにしましたが、金融機関のJ―REIT投資を促進したのは金融庁でした。金融行政が金融機関の不動産投資を促進し、大きな損失を抱え込ませ、不動産・建設業界の連鎖倒産を招いたのです。

〈アメリカ追随で愚かな「二の舞」に〉
 「貯蓄から投資へ」にしても、J―REITなどの証券化促進にしても、その大本には、「金融ビッグバン」以来の金融の野放図な規制緩和路線があります。世界的にそういう路線が見直されているにも関わらず、日本では依然、「金融立国論」として引き継がれています。
 そんな中で、日本の大銀行や証券会社は、「プライム・ブローカー」と称し、「いまが日本にとってチャンス」と、失敗したアメリカの投資銀行の代役をやろうとしています。金融危機で、株が下落したアメリカの銀行の株を買おうというのです。
 愚かにもアメリカの後追いをして、二の舞を演じるつもりでしょうか。こういう流れを後押ししている政府の「金融立国論」は、ただちに撤回すべきです。

生活・雇用に緊急の対策が必要

 金融問題を中心に今の政策的焦点をみてみましたが、次に雇用、生活の問題です。日本共産党は、国民のくらしをささえる政治への転換を掲げた「総選挙政策」(九月二五日発表)、および景気悪化から国民生活を守る「緊急経済提言」(一一月一二日)を出しています。その中から、当面のポイントを絞って取り上げたいと思います。

〈中小企業への「つなぎ融資」を最優先に〉
 まず中小企業の営業ですが、この間、大企業だけよくなっても実際の国内景気は回復してきませんでした。そのため国内需要中心の中小企業は、全体として資金を借りて設備投資を増やす状況には至らなかった。中小企業を元気にするには「総選挙政策」で訴えているように、「経済政策の軸足を大企業から家計と内需へ」切り替えることが重要です。
 その上で今、出てきている貸し渋り問題への対応です。とりわけ景気が減速して、仕事が減り、運転資金のための現金がない。借り入れの返済が回らないという事態が起きています。つまり先の見通しより目の前の「つなぎ」の資金がなくなって倒産に追い込まれるケースが増えています。
 「緊急経済提言」では、銀行に対して、中小企業への貸し出し目標・計画をもたせて監視・監督を強化すること、また信用保証制度では、部分保証を撤回し、ただちに一〇〇%政府保証に戻すことです。さらに公的資金を使うというなら、政府からの中小企業へ直接融資する「つなぎ融資」制度をつくるべきです。抜本的には、日本共産党が提案してきた「地域金融活性化法案」(二〇〇二年四月提案)のように、金融機関に地域の中小企業への資金提供を義務付ける実効性のある制度をつくっていくことです。それが金融機関の経営のあり方を正していくことにもつながるのです。

〈失業から非正規労働者の生活を守る〉
 「派遣切り」と言われる解雇が、ものすごい規模で起こっています。数年前は、正社員をリストラして非正規雇用に置き換えることが、大規模に行われました。現在は、その派遣社員の契約を解除する形ですから、正社員の場合より、さらに雇用責任が曖昧にされ、容赦のない解雇が続いています。大企業の大量「首切り」を許さない国民運動を強めなければなりません。また、そうした「使い捨て」の横行をなくすために、常用型派遣を基本にするなど労働者派遣法の抜本的改正を早急に実現する必要があります。現在、政府の出している「改正案」は、登録型の日数を若干、延ばすだけで、問題の改善にはほとんど無力だといえます。
 すでに何万という派遣労働者が、職を失うという事態が起こっています。緊急の救済策が必要です。厚労省の試算では、雇用保険に未加入の非正規労働者は一〇〇六万人に達しています。「緊急経済提言」では、六兆円の雇用保険の積み立て金を活用して、失業給付を非正規で働いてきた労働者にも、きちんと給付できるようにすることを提起しています。職業訓練もふくめ、未来ある若者たちを国があげて守る、育てる、そういう雇用政策への転換こそ必要です。
 加えて一言だけ、社会保障の問題に触れますと、こういうときこそ、本当の生活の安心感が持てるようにしなければなりません。それこそ最大の景気対策です。
 「定額給付金」は政府内でも異論続出で、誰が見ても、白紙撤回すべきだということがはっきりしています。生活の安心感を生むには、小手先のつくろいではなく、今、生活の重石となっている社会保障の負担増を減らすことです。「緊急経済提言」でも提案していますが、社会保障予算を毎年削減してきた分、一兆六二〇〇億円の予算を復活させ、後期高齢者医療制度、介護保険料・利用料など負担増分をなくす政策が、本当の安心感につながるものです。

総選挙で新自由主義路線にきっぱり決別を

 最後に言いたいのは、資本主義のあり方そのものが問われている、ということです。
 歴史的に見れば、今回の金融危機は、自由放任の資本主義の二度目の大破たんです。金融自由主義の旗振り役だった前FRB(米連邦準備制度理事会)議長のグリーンスパン氏が「百年に一度の危機」と言ったのは、一九二九年の「世界恐慌」と今回の危機を指していったことです。一九二九年の状況については、ガルブレイスの『大暴落1929』(日経BP社)に詳しく書かれていますが、やはり自由放任の資本主義への過信があり、株価バブルを引き起こし破たんしました。その後、ケインズ主義による資本主義への一定のコントロールが行われますが、新たな自由放任主義への回帰=新自由主義の台頭、すなわちサッチャー、レーガン改革、日本では八〇年代後半から中曽根内閣、そして小泉政権での「構造改革」路線となったわけですが、その第二の自由放任主義が、また破たんしたということだと思います。
 いま求められているのは、今までの自由化一辺倒や、アメリカ主導のグローバル化などの「世界標準」の転換です。
 実体経済重視の産業・貿易構造へ転換すること。資本の過剰蓄積をストップし、富を国民に還元させることです。まさにルールある資本主義への転換です。金融の在り方でいえば、金融はあくまで実体経済を補完するものに役割を変えさせること。今回の金融危機に際して、規制緩和の「行き過ぎ」を是正すればいいという、エコノミストなどの発言を聞きますが、そうではない。サブプライム・ローンというアメリカの個人の住宅ローンに世界中のマネーが群がったことに見られるように、金融自由主義の「パッケージ」が破たんしたわけで、金融システム全体が問われているのです。
 そういう意味で、今度の総選挙は、今までの新自由主義の路線を本当に葬り去ることができるかどうかがかかった政治決戦でもあります。
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