● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

あらためて問う「誰のための郵政民営化か」(「前衛」2005年11月号)
●日米金融業界とともにアメリカ政府自らの要求も

総選挙で郵政民営化は信任されたといえるか
 まず選挙結果と郵政民営化の関係です。郵政民営化法案は総選挙で信任されたことになるのかどうか。与党は今度の選挙で信任されたと言っています。確かに議席では自民・公明両党で三分の二を超えていますが、得票で見ると、比例代表では両党で五一%、選挙区では四九%です。だいたい半々で拮きつ抗こうしているというのが実態です。
 しかも自民党を支持した理由の中で、郵政民営化を理由に支持したという人は、いろいろな世論調査でも下位にある。むしろ「小泉さんだから」とか、他の理由で支持した人が多い。そのうえ、「賛成」と思った人にも、かずかずの事実を伝えない虚偽の宣伝がなされました。加えて、「小さな政府」や「官から民へ」など、さまざまなイデオロギー宣伝もおこなわれました。

事実を伝えないで虚偽の宣伝がなされた
@「「小さな政府」にできる」
 たとえば、小泉首相は「郵政民営化で公務員を減らす」といい、税金の節約になり「小さな政府」にできるとさかんにふりまきました。これは、郵政公社が独立採算で二七万人の人件費には一円も税金を使っていないということを隠した、虚偽の宣伝でした。
 そもそも公務員の数では、すでに日本は「小さな政府」です。国の一般会計にしめる人件費の比率は、一九七五年と二〇〇五年で比べると、二割から一割以下に半減しています。人口一〇〇〇人あたりの公務員の数も、フランス九六人、アメリカ八〇人、イギリス七三人にたいし、日本は三五人と先進国のなかで、公務員の少ない国です。
 もちろん国民の税金でまかなわれる公共部門の効率化を不断に追求していくことは必要です。問題は、なぜいま「公務員を減らせ」という宣伝が前面に押しだされているかです。三点あると思います。
 第一は、さらなる人件費予算の削減です。しかしこの間、公務員の仕事を外部委託したり外部法人化したりして、見かけ上の定数や一般会計における人件費は減少しても、かわりに外注費部分が増加しており、全体の予算の削減になっていないという指摘があります。
 第二は、「スケープゴート(身代わりの犠牲者)」をつくるためです。二つの面があります。一つはこれから国民に大負担増を求める前提として、「政府も身を削っている」ことを示すため。もう一つは、今、国民の大多数の生活が苦しくなっていますが、その不満の矛ほこ先さきを、政府ではなく公務員に向けさせるためです。現場ではたらく公務員の多くが賃金抑制や過密労働に苦しんでいるにもかかわらず、人々に「公務員は働かない、安定している」とふりまき、攻撃の対象にさせる。国民同士を反目させ、分断支配するのは、ファッショ的な権力がもちいてきた常じよう套とう手段です。
 第三は、公共部門の仕事に民間(財界)が参入し、儲けの場を増やそうということです。どの分野まで参入するかで数字は変わりますが、その市場規模は数十兆円といわれ、財界にとっては魅力的なマーケットです。すでにPFI(民間資金活用手法)をはじめ、「市場化テスト」や指定管理者制度の導入など、公共部門の民間市場化は急速にすすんでいます。
 「公務員を減らせ」の大合唱の裏には、これらの意図が隠されていることを見抜く必要があると思います。
 そもそも「小さな政府」というのは、税金は軽くするかわりに、社会保障や失業対策など国が本来やるべきことをやらないという考え方です。要するに、国民は一生自分で稼いで、自分の面倒は自分でみなさいというものです。しかし、資本主義社会でそれが貫徹できるのは、ごく一部の成功した人たちだけです。多くの国民は、長い人生で病気になることもあれば失業することもある。いざというとき再出発できるようにセーフティネット(命綱)を準備するのが政府の役割です。そのため資本主義の国でも税制や社会保障をつうじて所得の再分配をおこなってきました。それを真っ向から否定するのが「小さな政府」の考え方です。強いものだけが生き残ればいいという新自由主義的な思想に立脚しています。本当にそういう政府でいいのかという中身の議論がまったくなされず、「大きな政府(公務員多い=重い税)か、小さな政府(公務員少ない=軽い税)か」という単純な図式での宣伝がなされています。
 しかも、大企業や資産家には軽く庶民には重い税負担を求めてきたのが、「小さな政府」論者の実際の姿です。小泉内閣も同じです。そういう本当の姿を隠し、民営化すれば税金も軽くなるかのような虚偽のイデオロギー宣伝として「小さな政府」論が展開されてきました。
 いま問われているのは、ごまかしの「小さな政府か、大きな政府か」論ではなく、政府が本当に国民のくらしを守る役割を果たすのか、それとも放棄していくのか、このことだと思います。
 
A郵政公社「ジリ貧」論
 自民党の安倍幹事長代理は「今でも郵便事業は赤字だ」、「(インターネットや携帯のメールが)便利になったから郵便が大変になる」と危機感をあおりました(九月五日、神戸)。しかし、赤字というのはウソで、郵便は〇三、〇四の両年度とも三〇〇億円弱の純利益を上げており、黒字です。
 また郵政公社は「ジリ貧」になる、だから今のうちに民営化だと言います。具体的には、電子メールが増えて郵便の数が減っていくだろうとか、郵貯の規模が縮小傾向にあるということが理由にあげられます。
 インターネットの普及でメールが増えてきたのは事実ですが、だからといって郵便が減少の一途をたどるというのは極論です。インターネット先進国のアメリカでは、郵便事業の国営と全国共通サービスの維持を前提に、「技術革新は脅威であるとともに絶好のビジネスチャンス」とする報告をまとめましたし、郵便数量は九三年の一七〇〇億通から同時テロによる一時的後退を経て、二〇六一億通に伸びています。
 郵貯の預金量が減少しているのは、郵政公社自身のとりくみの結果です。この間、公社は、一〇〇〇万円を超えてしまった貯金や満期がきたものを個人の国債購入に切り換えてもらっています。この数年、不良債権の早期処理などによる金融不安などから郵貯にお金をあずける人が急増したのを適正規模にもどしていこうと公社みずからとりくんでいるのです。
 そもそも事業規模と民営化とはまったく別の話です。生田郵政公社総裁も、経営の自由度を拡大してもらえれば、公社としてやっていけると発言しています。反対に、民営化して無理やりバラバラにすれば、かえってジリ貧になる。民営化によって逆に経営が赤字に陥ることは、すでに日本共産党の質問で明らかになっており、竹中大臣も認めていることです。
 
Bムダづかいがなくなる?
 郵貯・簡保のお金が公団や特殊法人などに流れてムダづかいに使われている、だからその流れを断つ、というのもデタラメです。郵貯・簡保の資金が、公団など財政投融資機関に自動的に流れる仕組みは、すでに四年前になくなっています。いまは、政府自身が財政投融資計画にもとづいて国債(財投債)を発行し、民間金融機関や郵貯・簡保が、資金の運用先として国債を購入しているだけです。もし郵貯が国債を買わなかったら国債の価格は下落し、長期金利がはね上がるという事態になります。
 財政投融資計画には、不要不急の大型公共事業もふくまれています。政府自身がムダづかいをやめ、国債の発行をおさえることこそ必要です。民営化すればムダづかいがなくなるという話は、政府の責任を郵政公社に転嫁しようとする姑こ息そくなやり方です。
 
C身近なサービスは守る?
 民営化法案では、郵貯・簡保の全国一律サービスの義務づけがありません。不採算地域でサービスを続けるかどうかは、民間になったあと経営判断で決めるわけです。民間企業になった郵貯がもうからないところから撤退するのは時間の問題です。小泉首相も、民営化すれば「いまの郵便局が全部なくならないとはいわない。統廃合もある」と答弁しています。身近な郵便局がなくなり、サービスも大後退、金融サービスから排除される人が生まれるのは明らかです。
 
D民営化すれば税金を納めるので税収が増える?
 民営化すれば今よりよくなるという「明るいウソ」も宣伝されました。「民営化すれば税金を納めるから、国の税収が増える」というのもその一つです。
 これもわが党の質問で明らかになっていますが、郵政公社が納める国庫納付金(五割)よりも、民営化された場合の法人税(現在の実効税率=約四割)のほうが国に納めるお金は減ります。
 「民間にできることは民間に」というキャッチフレーズも大々的に宣伝されました。これも珍妙な理屈です。
 「民間にできることは民間にしてもらおう」といわれて即座に否定する国民は少ないでしょう。しかし、よく考えてみると、民間企業はもうけなければならない。そうしないと会社がつぶれるし、従業員の給料も払えない。もうかることをやるのは当たり前のことです。しかし世の中には、もうからなくてもやらなければならない仕事があります。そういう公的住民サービスは、通常、国や自治体、公的機関が税金を使っておこなってきました。
 ところが公社は、郵貯法、簡保法にもとづいて公的住民サービスをおこなってきましたが、三事業をやりくりし、税金を一円も使わないでやってきた。こういう公的機関は他にはないわけで、本来、国は公社に感謝こそすれ、文句をつける筋合いではない。にもかかわらず、こともあろうに税金を払っていないとか、預金保険料を払っていないとか、イチャモンをつけているとしか思えないことを言い出す。恥を知れといいたい。
 
E民営化すれば資金が民間に流れて景気がよくなる?
 明るいウソの二つ目は「民営化すれば資金が民間に流れて景気がよくなる。経済の活性化につながる」というものです。これはまったくの作り話です。民営化されて民間銀行、民間生保になっても、資金が経済活動に流れるかどうかは、景気がよくなるかどうか、つまり経済活動の方に資金需要があるかどうかで決まります。実際に民間金融機関の貸し出しは停滞したままで、運用先がないから国債の購入を増やしているのが実態です。国内、地域経済が上向かないかぎり、民間になった郵貯・簡保資金も国債などに運用せざるをえず、「官から民へ」の資金の流れは変わりません。
 
F「バラ色経営」論
 明るいウソとして一番笑ってしまうのは「特定郵便局をコンビニにすればもうかる」という話です。コンビニ業界は今でさえ過当競争で、もうかる場所にはすでに出店しています。
 私も地方の郵便局を回りましたが、立地条件として可能なところにはすでにコンビニが近所にありますし、過疎地では幹線道路沿いなどにしかコンビニはありません。そういうところは、民営化されれば、いまある郵便局がコンビニになるのではなく、郵便局がつぶれて、どこかのコンビニに郵便事業を委託するような形になるのではないかと思います。いずれにせよ、コンビニの話ももうかる立地条件に収しゆう斂れんしていく話です。
 また、竹中大臣の恩師の加藤寛さん(郵政民営化情報システム検討会議座長「千葉商科大学学長)が、「郵便局でカラオケを」と発言しているのも滑こつ稽けいです。加藤さんは「過疎地の郵便局は二四時間カラオケ・スタジオをやったらどうか」「近隣の若者がどんどんやってくる。みんな夜中じゅう歌うと楽しくなり、活力が生まれる」と東京都内で講演したそうです(「しんぶん赤旗」九月九日)。「バラ色」の経営論がいかに馬鹿ばかしく根拠のないものか、この話だけでもわかると思います。
 述べてきたように、選挙戦では、国会審議ですでにはっきりしていることを隠して虚偽の宣伝がくり返されました。また、マスコミも、郵政民営化法案の参議院での審議の際に、その中身をほとんど伝えず、否決か?解散か?など政局の報道ばかりに終始しました。選挙中の各新聞の「社説」も、とにかく「民営化先にあり」「改革を妨げるな」という中身のない主張が目立ちました。
 したがって、今回の選挙結果が正しい情報にもとづいた国民の判断だとは到底思えない。国会審議の中で再度、問題点を明らかにし、国民に知らせていく必要があります。

民主党の「郵貯縮小」案をどうみるか
 民主党が選挙中に打ち出した郵貯縮小案をどう見るか。中身は、郵便貯金の預入限度額を現行の一〇〇〇万円から七〇〇万、五〇〇万円に引き下げて、次のステップで民営化や廃止の選択肢もありうるというものでした。どうして、こんなものが急に選挙中に打ち出されたのでしょう。
 民主党はそもそも郵政民営化には賛成の立場でした。先の国会では、たんに政局にするために与党の法案に反対したのだと思います。問題は、なぜ「郵貯縮小・案かということです。
 もともと日米金融業界の要求は、国営であろうと民営であろうと、とにかく簡保・郵貯を「縮小・廃止」することにありました。
 全国銀行協会(全銀協)は、早くから「本来の役割を超えた公的機関はあくまで縮小・廃止を検討することが先であり、民営化は次善の策として検討されるべきもの」(当時の橋本徹全銀協会長、『月刊Keidanren』一九九七年四月号)などと主張してきました。
 政府の郵政民営化法案では肥大化した民営化案になるのではないかという懸念が出されていた今年二月に、全銀協主催の「公的金融問題フォーラム」が開催されました。基調報告にたった三木繁光全銀協会長は、「郵便貯金は本来、縮小の上、廃止することが望ましい」と念押しし、次のように述べています。「郵便貯金は現在もなお約二三〇兆円という巨大な規模を有しております。……民間との競争条件は依然として異なったまま、大きなひずみをもたらしております。……そこで指摘しなければならないと思いますのは、現状の規模を維持したまま郵便貯金を民営化しても問題が解決するわけではないということです。ただでさえ我々の業界はオーバーバンキングとの指摘がなされており、我が国において、新たに貸出業務等への参入を認めることに国民経済的な意義はありません……金融システムの安定性確保の観点から見ますと、郵便貯金は本来、縮小の上、廃止することが望ましいと考えます」。
 アメリカも数年前から日本の簡保などにたいするいろいろな要望を出してきましたが、最近まで「民営化」という言葉はいっさい使っていません。アメリカが一貫して求めてきたのも事業の縮小、とくに簡保の縮小・廃止でした。
 民主党がこの選挙で「縮小・廃止」の方向を前面に打ち出したのは、財界とアメリカにたいし、自党の存在意義をアピールするためだったのではないでしょうか。
 小泉首相が「自民党は『構造改革』政党に生まれ変わる」と「抵抗勢力」一掃に乗り出した。「刺客」を送り込んでまで造反議員をつぶし、党内に残る「抵抗勢力」にも公認とひきかえに「郵政法案賛成」の踏み絵をふませる。自民党が「構造改革」政党に純化すれば、いままで「『構造改革』のスピードが遅い」といってきた民主党の存在感が薄れます。その焦りもあって、自分たちこそ財界、銀行業界、アメリカの求める「構造改革」をストレートに推進しますとアピールするために、かれらの要求をそのまま打ち出したのではないか。この点では、民主党が年金政策でも財界の要求である「一元化」と消費税財源化を自民党より先にかかげたことも、同じ文脈ではないかと思っています。
 民主党の「郵貯・簡保縮小」案は何をもたらすか。現在、郵貯の預金構成は、三〇〇万円以下の預金が六七%、三〇〇万円超〜一〇〇〇万円以下が三三%となっています。少額預金と比較的大口預金の両方があるから経営的にも成り立っているわけです。預け入れ限度額を引き下げ、少額預金だけにしぼっていけば、コスト高になり経営的に苦しくなるのは目にみえています。民主党の提案は与党案よりも早く郵政事業を弱体化、解体してしまう危険性があると思います。

今後の論戦で「誰のための民営化なのか」をあらためて徹底的に明らかにする
 まず先の通常国会で、郵政民営化法案を廃案に追い込むうえで、日本共産党の論戦が大きな影響をあたえたことを確認しておきたいと思います。衆議院での論戦成果をひきつぎながら参院でも新たな展開がありました。たとえば、吉川春子参院議員は、一貫して簡易郵便局の問題を追及しました。他党の議員も吉川質問で「最初につぶれるのは簡易局だ」と気がつく。ある自民党議員は、吉川さんのことを「簡易局の女神」と呼んだほどでした。私も郵政民営化がアメリカの政府と金融業界の要求であり、それを受け入れて民営化基本方針が修正されたことを暴露しました。
 衆参をつうじ、少ない議席、短い質問時間でも日本共産党の論戦が法案否決に大きく貢献したことはまちがいありません。これこそ「たしかな野党」の存在価値だと思います。ここに確信をもって大いに奮闘したい。
 総選挙後の特別国会の論戦では、国民にとって「百害あって一利なし」の法案であることを再度、徹底して暴露すると同時に、「誰のための民営化なのか」もあらためて国民のみなさんにお知らせする必要があると思います。
 今回の総選挙は、一〇年を超える停滞・閉へい塞そく感のもと、「何かを変えてほしい」という国民の気分があって、そこに「改革」という言葉だけが繰り返しインプットされ、「小泉改革」支持という結果になったのではないでしょうか。
 郵政民営化についても、中身はよくわからないが、「改革」のために必要、何か前向きのことだろうというイメージだけが先行したのではないかと思います。
 そもそも「構造改革」は、竹中平蔵氏がはっきり言っているように、大企業の国際競争力をつけるための「改革」、財界のための「改革」です。平たく言えば、大企業の負担を減らし、その分、国民につけをまわすことです。そのために国、地方の予算のあり方から、雇用、社会保障、税制、あらゆる分野で「構造改革」をすすめる。いわば財界のための日本つくりかえ計画です。そういう「改革」であることを、もっと明らかにする努力が必要です。
 同じように郵政民営化も、誰のための民営化なのかをもっと広く国民のみなさんに知ってもらうことが大切だと思います。

アメリカ政府そのものも強い要求
 郵政民営化は、そもそも国民が望んで出てきた話ではありません。執しつ拗ように郵貯・簡保の縮小廃止、民営化を要求してきたのは日米の金融業界です。金融業界という場合、たんに銀行や生命保険会社だけでなく、外資をふくむ投資、証券業界の存在も大きいことを見ておく必要があります。なぜなら、郵貯・簡保が民営化されると、その株式売買もふくめ、日本の証券業界に数十兆円程度の資金が向かうと予測されており、巨大なビジネスチャンスが生まれるからです。しかも現在、日本の証券取引の三割以上は海外投資家がおこなっています。
 
〈米国債に日本の民間マネーを引き込む〉
 さらに加えて、アメリカ政府自身の強い要求が背景にあることも指摘したいと思います。
 昨年九月の日米首脳会談で小泉首相はブッシュ大統領に「郵政民営化は必ずやりぬいてほしい」と言われました。小泉さんはブッシュ大統領に頼まれたことは、何でも忠実に実行する情けない日本の首相です。不良債権の早期処理、テロ特別措置法、イラクへの自衛隊派遣、最近の憲法改悪の動きなどもそうです。
 しかし、どうして超大国アメリカの大統領が日本の郵政公社のことにまで口をだすのか。もちろんアメリカの生命保険協会の会長フランク・キーティングとブッシュ大統領が親しい関係だということもありますが、それだけでしょうか。私はアメリカ政府自身がどうしても郵貯・簡保を民営化してほしい強い理由があると考えています。それはアメリカの国債や証券市場の問題です。
 アメリカは財政赤字をたれ流してきた国です。なぜ赤字が増えたのかというと、ブッシュの先制攻撃戦略で軍事費が拡大したからです。クリントンのときは赤字が小さくなったのに、ブッシュになって二〇〇〇年あたりから急速に拡大しました。その赤字を埋めるため、アメリカは国債を発行して資金を調達してきました。米国債は日本とちがい、その半分を外国に買ってもらっています。
 私はこの数年、国会質問のなかで、日本政府がアメリカ政府の要求につき従って米国債を購入し、アメリカの軍事費と経済を支えてきた問題をずっととりあげてきました。日本の米国債購入が急増した時期である昨年二月の参院予算委員会でも質問しました。
 この間、ドルの値打ちが下がるのではないかという懸念や、EU(欧州連合)通貨ユーロが発足したということもあって、ヨーロッパなどは米国債から資金を引き上げつつあります。そのなかで、ひたすら米国債を買い続けてきた、買わされ続けてきたのが日本です(各国の米国債保有高の推移は別表参照)。日本は今年六月末現在で六八〇二億ドル(約七四・八兆円)保有しています。これは政府・日銀・民間の合計です。うち政府分はその約九割で、約六七兆円です。民間保有は約七兆円です。
 アメリカとの貿易取引が増加してきた東アジアも米国債を増やしてきましたが、中国などは人民元の切り上げにともない、今後、米国債の購入は減少していくと見られています。
 日本政府がどうやって巨額の米国債を購入してきたか。制度のしくみは複雑なので省略しますが、要するに国民のみなさんのお金で借金して買ってきたのです。借金で調達した円で円高介入(ドル買い)をし、そのドルで米国債を買ってきました。
 アメリカは、米国債から先進各国が引き揚げはじめている中で、今後どうやって消化するか。日本政府だけでなく、日本の民間マネーもさらに米国債に引き込みたい。そこで目をつけたのが、郵貯・簡保の三三〇兆円を超える資金です。これを民間に流し、米国債を買わせる。ここにアメリカ政府自身の郵貯・簡保の民営化にたいする強い要求があったと思います。
 
〈アメリカの景気を下支え〉
 いままで日本からアメリカに流れたお金は、ブッシュの軍事費拡大の穴埋めだけでなく彼の減税政策も支えました。また証券市場にも流入しアメリカの株価を引き上げる役割もになってきました。つまり日本のお金が、日本の景気をよくするためではなく、アメリカの景気をよくするために使われてきたわけです。
 この点では、郵貯・簡保資金で、アメリカの住宅債券会社の「エージェンシー債」を買わせようというねらいもあると思います。この間、アメリカは「住宅バブル」で景気がよくなってきました。その牽けん引いん役となったのが、フレデリックやファニーメイなど半官半民の住宅債券会社です。これらの会社は住宅ローンを証券化して、住宅供給を促進しています。会社の運営資金は「エージェンシー債」という債券を発行して調達しています。「エージェンシー債」は、米国債より若干リスクはありますが、リターン(利回り)もよいので、日本からの資金も、官民合わせて、現在一〇〇億ドル(一兆円)程度流入していると推定されます。
 日本の長期金利は約一・六%、米国債の利回りは約四・二%ですから、為替の変動リスクを勘案しても、郵貯資金・簡保資金が民営化されれば、米国債やさらに利回りのよい「エージェンシー債」などに流れるのは必定です。アメリカ政府はこのことを大いに期待しているのだと思います。
 最近になってアメリカ経済紙の「ウォールストリート・ジャーナル」八月二六日付も、「日本郵政公社分割で得をするのは誰か」という見出しで、それはアメリカの政府と証券業界だと指摘しています。「三兆ドルの資産の一部が外債に再配分される可能性があるため、すでにアナリストたちはその金額を忙しく計算している。……日本郵政公社の資産分配を民間部門のそれと比較したシティグループの試算によると、もし改革が実現すれば、米国債、ユーロ債、日本株、外国株が『勝ち組』になるという。『負け組』になるのは、日本の郵政事業がこれまで日本のソブリン債(国債・政府保証債)を選好してきたことから恩恵を受けてきた日本の債券市場だろうという。……シティグループの試算では、所有形態の変更〔郵政民営化〕にともない、新たな経営陣がより有利な投資先を求め、あるいは顧客が別の取引相手に乗り換えることにより、一兆三七五〇億ドルの資金が、国債、地方債、社債を含む日本の債券から流出するとされている。アナリストの推計によると、一二七〇億ドルは米国債に流れ、六四〇億ドルは欧州確定利付き債に向かい、そして、桁けた外れの五二一〇億ドルが日本の普通株に行くだろうと見ている」。

 さらに「日経金融新聞」八月一一日付も、「不良債権の抜本処理と同様、今回の郵政民営化も米国の要望であるのは紛れもない事実である。背景には、日本を投資の網の目の中に組み込もうとする、米企業と米国マネーの戦略がある」と指摘しています。
 なぜアメリカの財政赤字や軍事費、景気を支えるために、私たちの郵貯や簡保の資金が使われなければいけないのか。そのために身近な郵便局が民営化されて、つぶされなければならないのか。アメリカの身勝手な要求とそのいいなりになっている小泉内閣に強い憤りを感じます。

民営化は世界の流れに逆行
 郵政民営化が世界の流れに逆行していることも、はっきりさせなければならないと思います。
 与党は「改革を止めるな」とか「改革を前に」とか、いかにも郵政民営化が前向きの事業であるかのような宣伝をしました。しかし、今どき郵政民営化にしゃかりきになっているのは日本ぐらいのもので、世界の流れは、むしろ国民貯蓄、とくに小規模の預金を大事にする方向に動いています。
 
〈いったん民営化した国はどうなったか〉
 いったん民営化した国がどうなったかを調べると、みんな郵便局の数が激減しています。ドイツでは、九〇年にドイツポスト(郵便)、ドイツテレコム(電話通信)、ポストバンク(預貯金)に分割しましたが、二万九千あった郵便局が〇三年末に一万三千に激減、ポストバンクが全国的な営業網をつくれなくなって、結局ドイツポストに併合されました。小泉さんが絶賛していたニュージーランドでも、八九年に郵政民営化され、三分割。郵貯はオーストラリアの銀行に売却されました。支店閉鎖があいつぎ、小口口座の運営、低利融資などかつての便利な郵貯の復活を求める世論が高まり、〇二年に郵貯銀行「キウイ銀行」が誕生します。スペイン、フランス、オーストリアでも、郵便局の業務と郵貯を再合体させる動きになっており、みんな郵貯を守ろうという方向になってきています。
 
〈いま「金融弱者」問題が世界で〉
 どうしてそういう方向になってきたのか。
 八〇年代後半から始まった金融市場の規制緩和(いわゆる「金融ビッグバン」)による競争激化、金融機関の統廃合や各国での郵政民営化の結果、あくなきコストダウンが追求されるようになりました。低所得者や小口預金者はコストがかかるからと、民間の金融機関では、高い口座手数料や口座維持手数料までとるなど、金融の取引から排除される「金融弱者」問題が先進国にも広がった。アメリカやイギリスでは公営の郵貯がなく、高い口座手数料をとられるなどで、アメリカでは低所得者の三八%が口座をもてない、イギリスでは五世帯に一世帯が銀行口座をもてない状況です。
 こういう事態をふまえ、昨年一〇月に世界貯蓄銀行機構と世界銀行の総会決議は、「金融サービスへのアクセスは基本的な人権である」と宣言し、「金融排除」をなくす目標をかかげています。この流れのもと、世界各国で郵貯の役割の見直しがすすんでいるのです。
 今年はちょうど国連の「国際マイクロクレジット(小口貸出・預金)年」です。これは、途上国と先進国の「金融弱者」を守る年にしようと定められたものです。その年に、わざわざ小口預金者が排除される郵政民営化に狂奔する日本は、まさに世界の流れに逆行しているとしかいいようがありません。

郵政事業の未来・・セーフティネットとしての「国民貯蓄銀行」「国民生命保険」
 最後に郵政事業の未来についてです。日本共産党は、郵政公社をただ守れ、なにもかも現状維持でいいと主張しているわけではありません。郵政事業がめざす方向として、私は次の点が重要ではないかと思っています。
 第一に、世界的に「金融弱者」問題が広がっているときだからこそ、逆に日本の郵貯・簡保がもっている「国民貯蓄銀行」「国民生命保険」としての役割、国民のくらしのセーフティネット機能を守り、高めることです。
 かつては政府自身も、日本での「金融弱者」被害の拡大を予見し、郵貯・簡保の役割を重視すべきと主張していたのです。小泉内閣の発足前、政府は郵便貯金の役割を高く評価し、政府の委員会でも、次のように述べていました。「金融ビッグバンが進展する中、郵便貯金が個人金融市場において小口個人の利益確保を図るという本源的な役割はますます重要となる」(「郵便貯金の事業経営に関する将来ビジョン研究会」、二〇〇〇年)。
 日本の郵貯は一〇〇万円以下の貯金が四一・四%、三〇〇万円以下が六七・三%です。簡保の加入金額も、平均として低く、世帯合計で一〇〇〇万円未満が五九・〇%、三〇〇万円未満も二二・八%います。民間の生保は、一〇〇〇万円以上が七四・〇%、一〇〇〇万円以下が一五・五%、三〇〇万円以下がわずか四・八%です。つまり、職業制限なしで簡単に入れる簡易保険が、国民の生命の最低保障の役割をになっています。だから国民世帯で六割以上が簡易保険に入っているのです。
 竹中さんは、民間の生命保険会社だって誰でも審査なく入れる保険商品をつくっていると言いますが、実際の中身は対象者や給付に厳しい制限があり、簡易保険とはまったく違うものです。
 こういう郵貯、簡保のセーフティネットとしての位置づけをきちんとする。そのうえで上乗せをしたいという方は、民間金融機関や民間の生命保険を利用すればいいのです。大体、すべて民間にするよりも、郵貯・簡保か民間銀行・民間生保か、ニーズに応じて選べるようにした方が、国民にとっても選択肢が広がっていいのではないでしょうか。
 第二に、郵政事業をほんとうに国民に開かれた事業にするための改革は必要です。郵便局がさらなるサービスの向上に努めるのは当然です。特定郵便局長の世襲の問題も(世襲は三分の一に減っていますが)改善していくべきです。局長会がそのまま自民党の選挙の応援部隊になることも根絶していく。郵政関連事業が高級官僚の天下り先になり、いろいろな施設をつくったりしていることにもメスをいれなければなりません。
 第三に、郵貯・簡保の資金運用のあり方です。国債の利回りと預金金利は理論的にはほぼ一致するはずですから、国債だけの運用では無理があるという指摘が有識者からも出されています。この点では、中小企業や自治体などへの公的金融の原資として資金提供を拡充することが考えられます。地域で集めたお金が地域の活性化に使われる、そういう仕組みを発展させていくことが、国民にとっても明るい郵政事業の未来像となるでしょう。
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