● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

アメリカの経済介入はどう進められてきたか(「前衛」2006年2月号)
 前国会でわが党は、郵政民営化が日米金融業界とアメリカ政府の強い要求にもとづくものであり、アメリカがその政策決定に深く介入していたことを明らかにした。
 ことは郵政民営化だけではない。この十年間、アメリカの要求が、ことごとく日本の法「改正」で実現してきている。おもなものを図1に示した。大店法の廃止、雇用の流動化、会社法、商法などの一連の法「改正」や不良債権の最終処理、さらには次期通常国会の最大の焦点のひとつである医療制度「構造改革」にも、アメリカの要求が密接にからんでいる。
 しかし、日本政府がいやいやアメリカの要求を飲まされてきたわけではない。日本の財界自身もアメリカの模倣と従属の「構造改革」路線に特化してきた。小泉内閣の政策は、アメリカと日本財界の共同要求を積極的に受け入れるかたちで決定されている。
 本稿では、このことをふまえながら、アメリカがどのように日本の法「改正」に介入してきたかを検証してみたい。

「構造改革」はアメリカと日本財界の共同要求
 最初に、アメリカと日本の政府、財界の関係を簡単にふり返っておきたい。

ブッシュ政権の対日経済政策
 二〇〇〇年十二月にアメリカの「外交問題評議会」(政府系シンクタンク)が、「新政権のための対日経済指針」を発表した(以下、「対日指針」)。この「対日指針」は、二〇〇一年一月に発足したブッシュ政権の対日経済政策に採用されている。
 「対日指針」のねらいは、グローバル化の名のもとに、日本の市場を外国企業に開放させること、投資のしやすい環境を整備させること、さらに日本企業のM&A(買収、合併)の条件緩和や日本企業の経営形態、取引慣行、さらには労働のあり方もアメリカ型につくりかえることにある。そのために日本の各分野で規制緩和などの「構造改革」を求めるべきとしている。ブッシュ政権はこの「対日指針」にもとづき日本に働きかけ、同年六月末に出された小泉内閣の「骨太方針」には、「対日指針」で提言された「構造改革」メニューが、おおむね盛り込まれることになった。
 同年六月二十一日の日米首脳会談(キャンプデービッド)では、新たな日米経済関係のわく組みとして「成長のための日米経済パートナーシップ」が立ち上げられた。この「パートナーシップ」は日米間の「対話」を通じて日本の各政策分野で「協調」することを目的としたもので、くわしい内容は次の項で述べるが、このわく組みこそ、現在の日米経済関係の基軸をなすものである。
 なぜ「パートナーシップ」がつくられたのか。
 「対日指針」は日本への対応姿勢について、次のようにのべている。「アメリカの政策決定者と財界指導者は、日本の政治、経済の指導者たちとの間でより協力的でフレンドリーな関係を育めるように、日本で起きつつある経済的変化をうまく利用する必要がある。国内の『改革』支持勢力が力を得ていくにつれて、こうした勢力は、海外企業に日本の市場を開放するために行使されたこれまでの『外圧』にとって代わる役目を果たすようになるだろう」。
 つまり、直接的な「圧力」や「制裁」より、日本の「構造改革」勢力をパートナーとして支援し、協力させたほうが得策だと強調している。そのためのしくみが「日米経済パートナーシップ」である。

日本の財界戦略・・アメリカの模倣と追随の「構造改革」路線へ
 一方、日本の財界では、ブッシュ政権誕生の以前から「構造改革」路線への傾斜が始まっていた。バブル崩壊後の不況は財界の危機感を募らせ、当初は財界も大型公共事業による需要拡大策に期待していたが、しだいに供給サイドの改革、すなわち「構造改革」論に傾斜していく。
 九八年五月の経団連「第六〇回総会では、今井敬氏が新会長に就任し、総会決議で「経済活性化のために構造改革の実現」(@規制緩和による高コスト構造の是正A直間比率の見直し、累進税率の緩和および法人実効税率の引き下げB不良債権の早期処理C社会資本の「重点的」整備D公的部門の民営化など)をかかげた。
 同年七月に発足した小渕内閣は公共事業のばらまきを中心とした大型「景気対策」を連発したが、財界の反応は冷ややかだった。九九年の第六十一回経団連総会で今井会長は「財政の現状からみて、需要喚起策は限界に近づきつつある」「景気の本格回復にはサプライ・サイドの改革が欠かせない」とのべ、「構造改革」路線への政策転換を強く求めている。
 二〇〇一年四月には、「構造改革」をかかげて小泉内閣が発足した。五月の経団連総会の決議では、小泉新内閣を高く評価、今井会長も「今こそ日本経済の構造改革の断行を」と歓迎のスピーチをおこなっている。
 財界の求める「構造改革」とは、具体的にどういうものか。
 大きな柱でいえば、大企業の負担軽減(税と社会保険料負担の軽減、人件費の抑制のための法「改正」など)と、儲けの場を増やすための規制緩和(官から民への「民営化」論など)の二つに集約される。これらの要求は、毎年、各分野の政策提言や意見書、「規制改革要望」として、政府に提出されている。
 アメリカと日本財界の要求が重なり合うのは、おもに規制緩和の分野である。
 二〇〇〇年十月の「経団連・規制改革要望」(「経済社会の構造改革と行政改革の断行に向けて」)を見ると、その内容は、十五分野(「雇用・労働」・年金」「医療・介護・福祉」「教育」「流通」「土地・住宅」「廃棄物・環境保全」「危険物・防災・保安」「情報・通信」「金融・保険・証券」「運輸」「エネルギー」「通商」「農業」「競争政策」)にもおよぶ規制緩和の要求である。同時期に、前述のようにアメリカの「外交問題評議会」が「対日指針」でほとんど同じ内容の対日要求をまとめている。
 日本の財界は、ただアメリカに言われて従うというより、自らアメリカの模倣と追随の「構造改革」路線に乗っかることで活路を開こうとしたと見るべきであろう。このことは、経団連首脳部を占めるようになった多国籍企業が、アメリカ主導の経済のグローバル化のもとでの世界展開をすすめていたことと無縁ではない。
 「対日指針」が「日本で起きつつある経済的変化」「国内の『改革』支持勢力」と呼んだのは、これら「構造改革」路線へ傾斜しつつあった日本の財界と、それを支持する官僚、政治家集団のことであったのは間違いない。

アメリカの要求を受け入れるしくみ
 いまや「構造改革」路線は、日米財界の共同要求のもとですすんでいる。
 アメリカと日本財界の要求と小泉内閣の政策決定のしくみを、あえて概念的にしめすと、図2のようになるのではないかと思われる。
 財界いいなりの政治については、すでに本誌の各論文でも明らかにされてきた。以降は、おもにアメリカの要求と日本政府の政策決定との関係を見ていくことにしたい。
 アメリカは、日本の財界や「構造改革」勢力をパートナーとして利用するとともに、日本政府への直接的なアプローチもぬかりなくおこなってきた。異常なのは、日本にアメリカの要求を受け入れ実現するための様々なしくみが存在することである。

要求を受け入れる政府間のしくみ・・「日米経済パートナーシップ」
 アメリカの要求を受け入れる政府間のしくみが「日米経済パートナーシップ」である。新しい経済協議イニシアティブとして、「日米次官級会議」と「官民会議」(日米両国の官庁・民間部門が参加)を開催し、「構造改革」の諸課題を取り上げるとしている。
 そのテーマは、@「規制改革及び競争政策イニシアティブ」(電気通信、情報技術、エネルギー及び医療機器・医薬品、司法制度改革、商法・会社法改正など)、A「投資イニシアティブ」(外国からの直接投資促進のための会社制度の変更、雇用の流動化、土地の流動化など)、B「財務金融対話」(マクロ経済、金融、不良債権処理問題)、C「貿易フォーラム」の四つで、ここには「対日指針」が日本に要求すべきとした項目がそのまま盛り込まれている。
 実質的な議論は、日米次官級会議で進められる。参加者は、日米両国の経済関係省庁の次官級レベルで、議長は日本の外務省とアメリカの国家安全保障会議がつとめている。

〈「年次改革要望書」〉
 最も重要なのが「規制改革及び競争政策イニシアティブ」でまとめられる「年次改革要望書」である。
 「年次改革要望書」とは、毎年十月頃に日米両国政府が交換しているもので、九三年七月の宮沢・クリントン会談で合意、九四年から発行されてきた。二〇〇一年六月のブッシュ・小泉会談によって「日米経済パートナーシップ」がもうけられ、〇二年からは「規制改革および競争政策イニシアティブ」にもとづく「年次改革要望書」となった。要望にたいする回答は、毎年春頃に開催される日米首脳会談に「報告書」として提出される。
 アメリカ政府からの日本への要求は、電気通信、情報技術、エネルギー及び医薬品・医療機器の四つの産業分野と、競争政策、透明性の確保、司法制度改革、商法「改正」、流通、通関手続、ビジネスの円滑化など広範囲におよぶ。
 出された要望は分野別作業部会で検討し、具体化される。作業部会は、電気通信(日本側=外務省、総務省、米側=通商代表部)、情報技術(日本側=外務省、米側=通商代表部、商務省)、医療機器・医薬品(日本側=厚生労働省、米側=商務省)などに分かれる。アメリカ側は、通商代表部(USTR)や商務省など、アメリカを代表して日本に要求を突きつける役目の官庁ばかりである。
 またアメリカの通商代表部(USTR)は、これらの要求項目の検討経過や実現した事項について、毎年春ごろ、連邦議会に「外国貿易障壁報告書」を提出、日本にのませた要求の成果報告を自慢げにおこなっている。
 形式的には、日本もアメリカに対して要望書を提出しているが、実現したのはビザの発給の効率化やすでに古くなったダンピング措置の廃止など小さなことばかりで、アリバイ程度の話である。
 USTRの元官僚は「『年次改革要望書』は、二国間交渉の一つの理想型でしょう。文書に掲載することで、日本が米国の意向をくみ取り、国内調整をして貿易障壁を取り除いてくれるのですから」と述べている(『AERA』〇五年四月十八日号)。また、旧通産官僚で日米交渉の担当者だった畠山襄氏も、「年次改革要望書」のことを「内政干渉の制度化」と表現している(「しんぶん赤旗」日曜版十二月四日付)。さらに、小泉内閣で「投資イニシアティブ」の推進役であった平沼元経産相までも、「年次改革要望書」はアメリカいいなりのしくみとテレビで発言している(十二月四日、東京MXテレビ)。

〈「投資イニシアティブ」ほか〉
 「投資イニシアティブ」では、アメリカ企業の日本進出を促進するための法「改正」が議論される。アメリカ型の企業形態への変更や合併手続きの柔軟化、雇用の流動化、不良債権処理で出回った土地を市場で流動化させることなどがテーマとなってきた。日米の関係省庁によるワーキング・グループの会合は、半年に一回おこなわれ、経済産業省とアメリカ国務省が議長をつとめている。議論の結果は「日米投資イニシアティブ報告」にまとめられ、毎年、日米首脳会談に提出される。この「イニシアティブ」では、「対日投資促進セミナー」や「対日投資シンポジウム」を開催し、アメリカからの投資の「呼び込み」活動もおこなっている。
 「財務金融対話」では、おもに日本の金融問題が議題になってきた。日本は財務省、金融庁が参加、アメリカは財務省が参加する会議である。「貿易フォーラム」は、貿易および貿易関連の問題を扱う会議で、日本側は外務省、アメリカ側は通商代表部が参加している。
 独立した先進国で、特定の国の要求を受け入れる恒常的なしくみがあること自体、異常である。このことを十月十三日の参院郵政民営化特別委員会で小泉首相にただした。首相の答弁は「アメリカの要求を聞く『一つの会』だと考えれば、異常でも何でもない」というものであった。首相自身、「パートナーシップ」がアメリカの要求を聞くためのしくみと自覚しているにもかかわらず、頭の中がどっぷり対米従属にはまりきっているため、その異常さがわからなくなっているのである。

民間団体の活動
 アメリカの要求を実現するため、民間団体からの働きかけも活発におこなわれてきた。
 〈日米財界人会議〉
 その第一が「日米財界人会議」である。「会議」の歴史は古く、一九六一年に全米商業会議所と経団連、日本商工会議所、日本貿易会が合同で発足させた「対米貿易合同委員会」により「日米財界人会議」が開催されるようになった。現在はアメリカの「米日経済協議会」と日本の「日米経済協議会」の共催で開催されている。「米日経済協議会」は日本と関係の深いアメリカの有力企業によって構成され、「日米経済協議会」もアメリカと関係する約九〇の有力企業が参加し、日本経団連、日本商工会議所、経済同友会、関西経済連合会、日本貿易会が団体として支援している。
 日米の財界人が定期的に諸課題を協議し、政策提言や勧告をおこない、合意した事項は、「共同声明」となって発表される。その中身は、貿易の自由化から、郵政民営化、合併手続きの柔軟化、証券市場や医療分野の規制緩和など多岐にわたるもので、政府に働きかけてその実行が追求されることになる。
〈在日商工会議所(ACCJ)〉
 在日米国商工会議所(ACCJ)は、アメリカ企業の日本進出とその利益の保護のために活動する団体で、千四百社、三千二百人からなる日本最大級の外国人組織である。日米貿易摩擦が激化した八〇年代には「ガイアツ」の急先せん鋒ぽうと呼ばれた。金融、人事管理、ダイレクト・マーケティング、ヘルスケア、eビジネス、法務サービスなど七〇以上の委員会をもっている。各委員会では、日本の規制緩和に関する提言や意見書をまとめ、日本政府に対し積極的な働きかけをおこなっている。
 ACCJのホームページによれば、在日米国大使館とも密接に連携しながら、「年間を通じ、主要議員や政府高官と意見交換するほか、『国会ドアノック』と呼ばれる議員への個別訪問」もおこなっている。〇四年の日米租税条約の批准の際には、ACCJのドナルド・ウェストモア専務理事が自民党の中川秀直国対委員長(当時)に国会審議を急ぐよう直談判し、早期批准を実現した(「日経」〇四年六月二十八日付)。さらに、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所など日本財界との交流も深い。ACCJの活動が「外国人労働者の再入国許可書の延長」、「確定拠出年金の導入」、「外国人弁護士への門戸開放」「デリバティブ規制の見直し」「投資信託の回転売買への新規規則」など多数の成果をあげてきたと自慢している。

日本政府内で要求を実現するしくみ
 政府部内では、アメリカの要求と日本財界の要求とが渾こん然ぜん一体となって政策化される。
 小泉内閣における政策化の総司令部が「経済財政諮問会議」である。この「会議」は、民間議員の活動もふくめ、アメリカと財界の要求を、ただの要求に終わらせず、具体的に政策に押し込む役割を果たしている。首相に諮問することが役目であるにもかかわらず、首相自身が議長をつとめるトップダウン式の会議である。「骨太方針」や「予算編成の基本方針」を作成し、それが閣議決定されることで、各省庁の法改正や予算編成を拘束するという政策決定の強い権限を持つ(詳細は、「しんぶん赤旗」十月三〇日付、及び同十一月十一日付の特集を参照していただきたい)。
 「経済財政諮問会議」と連携しながら、アメリカと日本財界の規制緩和に関する要求を政策化する場が「規制改革・民間開放推進会議」である。
 小泉内閣は、二〇〇一年四月に「総合規制改革会議」を発足させた。いわゆる「構造改革・特区」は、〇二年の「総合規制改革会議」で提言され、〇三年度から実施されている。規制改革をより一層強力に推進するために、〇四年四月に「総合規制改革会議」が改組され、現在の「規制改革・民間開放推進会議」になった。
 「会議」の任務は、内閣総理大臣の諮問に応じ「経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から、経済社会の構造改革を進める上で必要な事項を総合的に調査審議する」ことにあり、「国及び地方公共団体の事務及び事業を民間に開放することによる規制の在り方の改革」などを検討し、対応方針を総理大臣に答申する(内閣府設置法)。毎年、この「会議」で改定される「規制改革推進三か年計画」は、閣議決定を経ることにより、各省庁の政策と法改正に強い拘束力をもつ。
 委員の任命は総理大臣がおこなう。議長は宮内義彦(オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEO)、議長代理は鈴木良男(株式会社旭リサーチセンター取締役会長)で、規制緩和で直接、利益を受ける企業の代表と規制緩和推進論の学者十三名で会議が構成されている。読売新聞の〇四年十一月十六日付(夕刊)によれば、会議の委員に内定していた「ワタミフードサービス」の社長が、株式会社の学校経営に反対の意見をのべたところ、内閣府の要請で委員就任を辞退させられている。最初から「規制緩和ありき」の会議である。
 また日本共産党の小池晃政策委員長(参院議員)が二〇〇四年十一月十一日の参院厚生労働委員会で明らかにしたが、この会議の事務局である「規制改革・民間開放推進室」も、三人の企画官のうち一人は日本経団連からの出向者、室員である参事官補佐も二五名中十五名が、大企業や大手生命保険会社など規制緩和で恩恵を受ける民間企業からの出向である。自分たちの要求を直接、・答申」に盛り込み、政府の政策として打ち出している。さらにこの「会議」では、日本経団連や在日アメリカ大使館、在日米国商工会議所から直接、要望や意見を聞くヒヤリングが毎年おこなわれている。

具体的にどうアメリカの要求は実現していくのか
 以上のしくみをふまえたうえで、つぎにアメリカの要求がどのように具体的に日本の法「改正」に結びついていったのか、前国会で最大の焦点となった郵政民営化と、次期通常国会での最大のたたかいになる医療制度「構造改革」について見ていきたい。郵政民営化については、すでに本誌十一月号の拙稿「誰のための民営化か」で詳しく述べたので、アメリカの要求と介入の実態だけを取り上げる。医療制度「構造改革」については、日本財界とアメリカの要求の両面から、「法改」正のねらいを考えてみたい。

郵政民営化

〈アメリカの要求〉

 アメリカの保険業界は、長年にわたり日本の医療・損保などの保険分野での規制緩和を求め、実際に第三分野(医療保険、がん保険など)への進出を果たしてきたが、最も強い要求が、簡易保険の縮小・廃止だった。
 九六年十一月の「年次改革要望書」で「郵政省のような政府機関が、民間保険会社と直接競合する保険業務に関わることを禁止する」ことを主張、九九年十月の「要望書」では、「簡易保険の縮小・廃止」を強く求めている。二〇〇〇年の「要望書」でも「簡保が新商品を拡大しないこと」を要求している。
 そして〇三年十月の「年次改革要望書」では、「米国政府は、二〇〇七年四月の郵政民営化を目標に、小泉首相が竹中経済財政・金融担当大臣に簡保・郵貯を含む郵政三事業の民営化プランを二〇〇四年秋までに作成するよう指示したことを特筆する」と竹中氏の個人名をあげて、民営化を歓迎している。さらに〇四年十月の「年次改革要望書」では、民営化の中身に踏み込んで、「郵便保険と郵便貯金事業に、民間企業と同様の法律、納税条件、規制監督を適用すること」を求めている。
 「日米財界人会議」も、〇四年十一月の「共同声明」で、「郵貯・簡保が日本国民一般にユニバーサルサービスを提供し続ける必要はなく、本来的には廃止されるべきである」とし、「政府保証の廃止」や「早急な完全民営化の実現」を要求している。

〈アメリカの介入〉
 小泉内閣が郵政民営化に本格的に乗りだした〇四年以降、アメリカの働きかけは執拗になってくる。
 政府の郵政民営化準備室が、〇四年四月以降、アメリカ政府や民間の関係者と十八回も意見交換を重ね、そのうち五回がアメリカの保険業界との会合であったことが、日本共産党の追及で明らかになった。
 さらに十月十三日の参院郵政特別委員会では、在日米国大使館が、郵政民営化について日本側の「重要人物」と毎週一回の会合をおこなうなど、アメリカ政府がただならぬ介入を重ねてきたことも明らかにした。総選挙直後の九月二十八日に開かれたアメリカ下院の歳入委員会の公聴会で、USTRのウェンディ・カトラー代表補(日本担当)は「日本の生保、損保市場への米側の参入拡大を確保することが米政権の最重要課題である」「われわれの(在日米国)大使館は、日本でのこの課題に取り組む重要人物たち(キー・プレイヤー)と、週一回の会合(ウイークリー・ミーティング)を開催している」「日本政府の中にわれわれの立場に大変共鳴する人がたくさんいる」と証言している。
 この証言をもとに、竹中大臣に「重要人物とは誰か」とただしたが、彼は「日本政府の人間とは限らない」「わからない」という答弁を繰り返すだけだった。小泉首相にも調査を求めたが「何で調べるんですか」と調査を拒否した。理事会として調査回答を求めるよう要求し、夕方の理事会でそのことが決定された。日本共産党の要求がすぐ理事会決定されるのは異例のことである。その日のうちに外務省をつうじてアメリカ本国の通商代表部に問い合わせが打電され、翌日にアメリカ政府から私あてに回答がきた。回答には「(氏名はいえないが)、大使館は官民の両方の人物と話をしてきた」というもので、「重要人物」のなかに官、すなわち政府関係者がいることが裏付けられた。

〈アメリカの要求で郵政民営化基本方針が修正〉
 〇四年八月二十日におこなわれた日米保険協議の結果、アメリカの要求が九月に作成された政府の郵政民営化の基本方針に盛り込まれた事実を、〇五年七月二十五日の参院郵政民営化特別委員会で明らかにした。アメリカ通商代表部(USTR)の「通商交渉・政策年次報告書」(〇五年三月一日)では、次のように書かれている。
 「二国間協議は二〇〇四年八月に東京で開催され、米国は簡保と民間事業者の間に存在する不平等な競争条件に対する継続的な懸念を表明した」「この保険の協議は、内閣が法案起草の指針にする設計図(=九月十日に出された民営化基本方針)を発表し承認する直前に開催された」「その後、内閣の設計図には米国が勧告していた次のような修正点が含まれた。(簡保事業について)@民間事業者と同じ納税義務を負わせること、A政府保証を打ち切ること、B保険のセーフティネットのシステムへ加入させること、C民間事業者と同じ法的義務や規制上の義務の下に置くこと」
 アメリカの要求が、基本方針に盛り込まれたと明言している。この点を竹中担当大臣にただした。大臣は「アメリカ政府がそのように考えているということだと思います」と、あくまでアメリカ側の見方であると強弁した。八月五日の特別委員会では小泉首相にも同じ点を追及したが、「アメリカが言ったからやったんじゃない」と繰り返すだけで、USTRの文書については最後まで言及を避ける始末であった。
 このことは、アメリカ政府の「外国貿易障壁報告」(〇五年三月)でも、郵政民営化基本方針が簡保に対する政府の保証の廃止をかかげたことなどをあげ、「これらの修正点は、米国が長年主張してきたもの」と成果を自慢している。さらにアメリカの財務次官補のランダル・K・クアールスも「小泉首相の民営化プランは、私が述べてきた原則を採用している。法制化作業を行っている政府当局者の私的及び公的なコメントもそうである」と発言をしている(〇五年三月十日、外国人記者クラブ)
 政府が総選挙後の特別国会に再提出した郵政民営化法は、十月十四日の参院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。
 同日、アメリカの生命保険協会は、郵政民営化法の成立を歓迎するとともに、民営化後に外国企業と同等の競争条件が実現するよう省令制定など今後の手続きを注視していく考えを明らかにした。日米財界人会議も十一月十四日に「共同声明」を発表、郵政民営化法案が成立したことを評価するとともに、「郵貯・簡保の新商品の拡大」や「新旧勘定間の相互補助」の禁止を求めている。同十五日には、USTRのポートマン代表が、釜山での二階経産相との会談で、郵政民営化の過程でアメリカの保険会社の利益に配慮するように要請している。さらに同二十二日には、在日米国商工会議所(ACCJ)が、政策提言を発表し「民間企業と対等な競争条件が確立されるまでは、郵政新会社による新規事業への参入や新商品の投入を認めるべきではない」と指摘。アメリカは、ひきつづき民営化の過程にも介入していくつもりである。

 郵貯が民営化されるということは、日本の公的貯蓄部門がなくなることを意味する。図3は「世界の公的貯蓄」の現状を示したものである。公的貯蓄部門がゼロやわずかなアメリカとイギリスでは、民間金融機関が少額預金者や低所得者を相手にしない「金融弱者排除」が社会問題化している。今後、日本でも金融弱者の排除が懸念される。簡易保険の民営化は、国民の生命の最低保障としての公的保険がなくなるということである。郵政民営化の本質は、アメリカと日本の金融界の利益のために、国民のくらしを支えてきた公的貯蓄や公的保険が消滅させられることにある。

医療制度「構造改革」

〈医療制度「構造改革」のねらい〉

 十月十九日、厚生労働省が「医療制度・構造改革試案」を発表した。高齢者の自己負担増や患者負担の引き上げをはじめ、国民皆保険制度を破壊する空前の大改悪案である。「試案」の内容と分析については「しんぶん赤旗」や本誌十二月号の谷本論文、梅津論文を参照されたい。また十二月一日には政府・与党の「医療制度改革大綱」が決定された。
 この医療制度「構造改革」にも、日本財界とアメリカの要求がこめられている。かれらの要求は、一言でいえば、公的医療の縮小と医療の市場化である。
 保険証一枚で受けられる公的医療の範囲を縮小し、保険の自己負担や自由診療部分(全額患者負担)を増やせば、公的な医療費を抑え込める。そうすれば、社会保険料負担や老人医療への拠出金など大企業の負担を抑制できる。また、公的保険でみる医療の範囲が縮小すれば、国民はいざという時のために、民間の医療保険などに加入せざるをえない。自己負担と自由診療部分が増えれば増えるほど、アメリカや日本の保険会社、医療サービス会社が儲かる。企業負担の抑制と同時に、儲けの場が拡大する(医療の市場化)という意味で、医療制度「構造改革」はかれらにとって一石二鳥の「改革」である。
 そのために公的医療費の「総額管理方式」をはじめとする医療費抑制のための制度設計、「自己負担増」、「混合診療」の解禁、「株式会社の参入」が財界とアメリカの要求の中心になっている。
 「総額管理方式」とは、医療費総額の伸びを経済成長率に連動させて抑制しようというもので、「景気の悪いときは病気をするな」という滅茶苦茶な論理である。厚生労働省「試案」や「大綱」では、さらに公的医療費を抑制するために、「新たな高齢者医療保険制度の導入」や「都道府県による医療費抑制競争」などが打ち出されている。「自己負担」についても高齢者の窓口負担の引き上げ、入院患者の居住費・食費の全額自己負担化、高額療養費の負担上限額の引き上げなど、かつてない規模の改悪メニューである。
 「混合診療」とは、公的保険がきく診療(保険診療)と保険がきかない自由診療(保険外診療)を組み合わせることをいう。すでに、特定の大病院でおこなう心臓移植などの「高度先進医療」や、差額ベッドなどの「特定療養費制度」で、例外的に「混合診療」が認められている。「混合診療」の解禁とは、患者の支払い能力がそのまま医療の格差となってあらわれる医療制度への変質を意味する。同時に、保険会社や医療サービス会社、薬品、医療機器会社にとっては、儲けの場を広げることに他ならない。
 具体的に、日本財界とアメリカの動き、政府内部の議論の過程についてふれておきたい。

〈日本経団連の動き〉
 日本経団連は、〇四年九月の意見書「社会保障制度等の一体的改革に向けて」、および同年十一月発表の「〇四年度・規制改革要望」で、「公的医療保険制度の守備範囲の見直し」と「混合診療」の解禁など「医療・保健サービス分野において民間活力が発揮できる環境を整えていくべき」と主張している。さらに同年十二月の「財政の持続可能性確保に関する提言」では「公費負担に関する目標額をかかげ、改革工程を明らかにすること(「総額管理方式」)」「保険外サービスと保険サービスの併用を進めること(混合診療)」「免責額を設定し、一定額以下については全額自己負担とすること(保険免責制度)」そして「何よりも老人医療費の伸びを抑制すること」を要求している。
 〇五年五月の提言「医療制度のあり方について」では、「公的給付費については名目GDP成長率を基軸にして伸び率を抑制することが重要」と再度強調し、「総額管理」に抵抗する厚生労働省の姿勢を批判、伸び率を抑制する手段として「個別課題ごとに国、地方自治体、保険者、医療機関、国民などが実施主体となり、到達目標と実施計画を策定、実行し、その評価を進めること」を強く求めている。同年六月発表の「〇五年度・規制改革要望」でも「経済と整合的な目標を設けて公的な医療給付を適正化する必要があり、思い切った規制改革の実現を図るべきである」とし、「営利法人による保険医療機関の経営参入の容認」や「一般小売店で販売が可能な医薬部外品等の拡大」などを要求している。また同年十月に発表した「二〇〇六年度の医療制度改革に向けた日本経団連のスタンス」では、「公的医療保険制度は相互扶助と個人の自助を基本とし、給付内容を、重度の病気やけがで生命や生活に支障がある人への医療サービスに重点化する必要がある」とのべ、公的医療給付費の総額を抑制するための政策目標の設定とアクションプランを求めている。具体的には、「公的医療給付費の総額目標」として、二〇一〇年度の公的医療給付費を四兆円抑制し、三十兆円以内に抑えることを提案している。さらに「高齢者の自己負担増(原則、入院二割、入院外三割)」、「公的給付範囲の見直し(入院時の食費・居住費の全額自己負担、保険免責制の導入、高額療養費の上限見直しなど)」、「高齢者医療制度の創設」や、「保険者の再編・統合」、「診療報酬の見直し」、「混合診療」の拡大、「株式会社の参入」を要求している。

〈アメリカの動き〉
 日本の医療分野にたいするアメリカの規制緩和要求も長年にわたりおこなわれてきた。
 アメリカの要求の中心は、医薬品や医療機器を日本への売りつけるための規制緩和、医療保険分野への進出とシェアの拡大である。日本の公的な健康保険料の支払は約十六兆円だが、民間の医療保険等への支払はすでに二十六兆円に達しており、うち外資系のシェアは約二割で、この二、三年で一・五倍に増加している。またアメリカのAIG傘下の生命保険会社三社(アリコ、エジソン、スター)は、〇四年の保険料収入が日本生命を抜き、国内トップに躍り出た。とくにこれからは「混合診療」の解禁、「株式会社の参入」が強い要求となっている。
 「規制改革・競争政策イニシアティブ(「年次改革要望書」)
 九八年、九九年の「年次改革要望書」では、「革新的」な医薬品・医療機器の導入をすすめるための規制緩和が要求の中心である。また「医療サービスの規制撤廃」という項目では、病院経営などへの参入規制の撤廃を検討すべきとしている。「保険」の項目では「アメリカの保険会社に対して日本の保険分野の規制を撤廃し、市場を開放するという日本の金融監督庁とその他の関係機関の努力を歓迎する」としつつ、「保険提供における民間部門の役割を最大限にする一方、政府の役割は最小限に」とのべ、民間の新保険商品の認可などいっそうの規制緩和を求めている。
 二〇〇〇年の「要望書」は露骨である。「日本の医療機器・医薬品市場は世界第二位の規模である。しかしながら、この分野において世界的リーダーである米国の製造業者は、新製品の日本への導入を妨げるような規制による障害に引き続き直面している」とし、「当初三年間の『規制緩和及び競争政策に関するイニシアティブ』を通して日米両国政府は重要な成果を上げた(新薬承認処理期間の一二ヶ月への短縮、医療機器および医薬品承認の外国臨床データの利用拡大、特定の新医療機器への暫定価格の適用など)が、さらなる成果を上げる余地がまだかなりある」と踏み込み、「革新的」な医薬品の導入促進、「薬事制度」の改革、医療法人の定義の緩和と業務の外部委託化の推進を求めている。
 〇一年の「年次改革要望書」では、医療制度改革について「米国政府は日本が医療制度を改善するための手段として市場競争原理の導入と構造改革の遂行に焦点を定めていることを歓迎する」とし、「特に『総合規制改革会議』の提案を支持する」と強調した。「総合規制改革会議」の提案とは、同年七月二十四日に出された「重点六分野に関する中間とりまとめ」の第一項目に取り上げられた医療分野の規制緩和のことである。中身は「医療に関する徹底的な情報公開とIT化の推進」や「医療機関の広告及び情報提供に係る規制の抜本的見直し」「診療報酬体系の見直し(定額払い制度の拡大)」「医療機器・医薬品の価格算定改革」「公民ミックスによる医療サービスの提供(混合診療)など公的医療保険の対象範囲の見直し」「医療機関の経営形態の多様化」「医療分野の労働者派遣」等々で、何のことはない、もともとアメリカの要求を「総合規制改革会議」が代わりに打ち出したものに過ぎない。
 〇二年の「年次改革要望書」では、「医療機器・医薬品に関するすべての制度を規制する『薬事法』の改定が、制定後四〇年で初めて実施されていることを支持する」とし、アメリカの要求が実現しつつあることを歓迎している。また〇三年の「要望書」では、日本の医療改革の動きを歓迎。とくに「薬事法」の改正を評価したうえで、さらに医療機器・医薬品の承認および市場導入前の期間の迅速化をはかることを求めている。
 「投資イニシアティブ」 〇五年七月に発表された「日米投資イニシアティブ報告書」には、「米国企業はかねてから日本の医薬品、医療技術及び医療機器ビジネスに参画してきているが、医療サービス市場についても米国企業が参加し貢献する余地がある」とし、「混合診療」の解禁、「営利企業による医療サービスの提供」を要求している。
 「報告書」には、アメリカ側が「混合診療」の解禁を求めたことにたいし、厚生労働省が「今後とも、米国政府の要望に応じて、『混合診療』問題の改革の進展について、情報提供を継続する」と答えたことが記載されている。
 「営利企業による医療サービスの提供(株式会社の参入)」については、厚生労働省がアメリカと日本財界の要望にこたえて、当面「構造改革・特区」において株式会社による病院経営を許可していた(〇四年十月一日適用)。この「特区」については神奈川県が申請し、横浜に株式会社バイオマスターが美容外科の診療所を開設することになっている。このバイオマスターの株主には、オリックスやニッセイ・キャピタルなどが参加している。しかしこの「特区」についてもアメリカ政府は「報告書」のなかで「公的医療保険が適用されない自由診療の分野という狭い範囲のサービスしか認められていないことは不十分であり、魅力的ではない」と批判している。また「日本の医療法では地方自治体の裁量のもとで営利法人が病院や診療所の経営を行うことを実際には禁止していない」とわが国の法解釈にまで言及している。まさに内政干渉である。
 在日米国商工会議所(ACCJ) 医療分野へのアメリカ企業の進出とシエアの拡大は、在日米国商工会議所(ACCJ)が強力に日本政府に働きかけてきた。
 すでにACCJは「二〇〇一年版日米ビジネス白書」で「企業による病院経営の認可」や「医療機関が国民健康保険でまかなわれない治療、技術および医薬品の費用を民間保険に直接請求できるようにすること」を要求していた。
 〇四年一月には「株式会社等による医療機関の所有、経営および運営の解禁について」という意見書を日本政府に提出。「株式会社等による病院経営を禁止することは患者の保護というよりは、強固な財政基盤と優れた経営を有する大規模な医療機関との市場原理に基づく全面的な競争から、個人経営の病院を保護するものとなっている」と批判、医療法第七条の「営利を目的として、病院、診療所等を開設しようとする者に対しては開設の許可を与えないことができる」という規定も、あくまで「できる」規定であり、「そのような申請を不許可にすることを義務付けるものではない」と、外国の民間団体がわが国の法解釈に噛みついている。さらにACCJは〇四年九月十三日の意見書で、「構造改革・特区」にたいしても、「高度先進医療」に限定していることや、国民健康保険制度の対象から外されていることなどをあげ、極端な制限をもうけていると批判している。またこの意見表明で「『企業病院』において実施できる医療行為の範囲は自由診療だけでなく、国民健康保険制度上の医療費還付対象となる通常の医療処置を含めること」「国民健康保険の適用がなければ、医療関係企業の大半にとって、大規模な市場開拓を行なうことは困難となる」と主張している。
 つまりアメリカは「株式会社の参入」と「混合診療」解禁がセットで実現することを求めているのである。
 そのねらいは、アメリカから企業病院が日本に直接参入するというよりも(アメリカでも株式会社病院は全体のわずか一割弱に過ぎない)、日本の一定規模以上の病院への「投資」と医療サービス、医療機器、医薬品での提携であろう。ACCJの〇四年一月の意見書でも、「現代の病院経営においては、先進技術に対する大規模な投資が必要とされている。現行規制は、民間企業に認められている株主資本による資金調達の機会を医療機関から奪っている。株主資本を利用することができなければ、民間の医療機関は、小規模な個人経営以上に規模を拡大していくことは不可能である」「医療機関が、資金の調達を多様な選択肢の中から選ぶことを可能にすることにより、日本のみならず海外からの医療サービス産業への新規参入が促進される」とのべている。実際には、赤字経営に陥っている病院を安く買い取り、「混合診療」病院に再生したうえで株式会社として高く売るという、外資お決まりの「投資」手法を目論んでいるのではないかと考えられる。

〈日本政府部内の動き〉
 日本財界とアメリカの要求は、公的医療の縮小と医療の市場化である。政府部内では、「経済財政諮問会議」と「規制改革・民間開放会議」が二人三脚で遂行してきた。二つの会議の経過を見ておきたい。
 「経済財政諮問会議」 「経済財政諮問会議」では、医療制度の「構造改革」について、たびたび議論されてきた。
 〇四年の議論の最大の焦点は「混合診療」の解禁だった。九月十日の会議では小泉首相が年内に解禁の方向で結論を出すよう指示。十一月十五日と十二月八日の会議では、解禁に抵抗する尾辻厚生労働大臣と小泉首相、民間委員との間で激ミした議論になっている。その議論の中で、十二月七日に「規制改革・民間開放推進会議」の宮内議長が、国会で全会一致で採択された「混合診療導入反対」の請願など無視してもよい旨の発言をしていたことが明らかになった。しかし結局、十二月十五日には、尾辻大臣と村上内閣府規制改革担当大臣の間で「混合診療」解禁の方向で「基本合意」が交わされることになる。
 〇五年の議論の最大の焦点は、医療費抑制のための「総額管理方式」だった。十月四日の会議では、「総額管理」に消極的な厚生労働省の姿勢に対し、財界の代弁者である民間委員からの批判が集中した。その後、十月十九日に出された厚生労働省の「医療制度・構造改革試案」には、財界が要求していた事項がおおむね盛り込まれ、「総額管理」についても、二〇二五年度において、現行制度で推移した場合五六兆円と見込まれる医療給付費を中期、短期の対策の結果、四九兆円に抑制することになるという「数値」が示された。
 しかし十月二十七日の「経済財政諮問会議」で、民間議員からは経済規模から策定したものではなく、ただの見通しと試算に過ぎないとの厳しい批判が続出した。「医療はあくまで積み上げ。総額規制はできない」という立場の尾辻厚生労働大臣とのあいだで激しいやりとりが交わされたが、「総額管理方式」は財界の強い要望であり、小泉首相も指示をしていた事柄である。最後に小泉首相が「小さな政府を目指すのであれば、経済財政状況を考えないと保険を維持できない。何らかの手法が必要だ」と一喝。その数日後の内閣改造で、尾辻氏はわずか一年で厚生労働大臣を交代させられた。
 その後、十二月一日決定の政府・与党の「大綱」には、「将来の医療費の規模の見通しを示すにあたっては、その対国民所得費比や対GDP比を示す」という文言が挿入されることになった。
 「規制改革・民間開放推進会議」 「規制改革・民間開放推進会議」の議長である宮内義彦氏は、〇二年一月二十六日号の『週刊東洋経済』のインタビューに答え、医療分野の規制緩和について次のように語っている。「医療はGDPの七%(約三十五兆円)という大マーケットです」「医療イコール保険だけではなく『自由診療も認めよ』という考え方です。公は保険、民は自由診療で、公民ミックスで多様な要求に応じればよい」「金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」「企業が病院を経営してもよい。利潤動機の株式会社に、人の命を預かる医療を担わせるとは何事かと言われるわけですが(笑)」
 医療は儲けの場であるという考え方が如実にあらわれている。宮内氏が最高責任者をつとめるオリックス・グループ自身、オリックス生命保険を持っており、医療保険を販売している。利益を受ける当事者が政策を答申する責任者になっているのである。宮内氏はたびたび「経済財政諮問会議」にも出席し、規制改革の最重要課題が「混合診療」の解禁だと主張している。
 財界の要求については、毎年、日本経団連の「規制改革要望書」がこの会議に提出されており、会議での直接のヒヤリングもおこなわれてきた。〇四年十一月二十二日の会議では、日本経団連の大久保行政改革委員会共同委員長が出席し、「『混合診療』の解禁は長年の懸案事項である。特定療養費制度の拡充という形ではなく、真の『混合診療』解禁の早期実現に向けて、重点的に取り組みをいただきたい」と意見表明している。
 同日の会議には、アメリカ側からジェームス・ズムワルト米国大使館経済担当公使も出席し、意見表明をおこなっている。「アメリカ政府は、日本の規制緩和について非常に関心がある」と前置きし、十月十四日に日本側に出した「年次改革要望書」と「日米投資イニシアティブ報告書」を紹介しながら、「営利目的の病院」「医療サービスの外部委託」「特区の利用」「混合診療」の四点で規制緩和を急ぐよう求めている。
 また「ニュービジネス協議会」(社団法人)の存在も見逃せない。「ニュービジネス協議会」は、規制緩和によって生まれるニュービジネスを当て込んだ企業の集まりである。オリックス、アメリカンファミリー生命、セコム、シダックスなど国内外の企業が参加し、政策提言や研究、情報交換をおこなっている。〇二年九月二十六日には「総合規制改革会議」に呼ばれ、「混合診療」の解禁や株式会社の参入要件の緩和を求めている。「ニュービジネス協議会」の会長には、医療・福祉分野でフードサービスをおこなう企業であるシダックスの代表取締役・志太勤氏が就任している。志太勤氏は「規制改革・民間開放推進会議」のメンバーそのものであり、毎回の会議で委員として「ニュービジネス協議会」の利益を代表する発言をおこなっている。
 これら日本財界とアメリカの要求は、〇四年十二月二十四日の会議で決定された「規制改革・民間開放の推進に関する第一次答申」に盛り込まれ、小泉首相に提出された。「答申」は、「市場化テスト」と、「混合診療」や「株式会社の参入」など医療分野の規制緩和が目玉になっている。
 「答申」では、「混合診療」について「まず現行制度の枠組みの中で出来るものから順次実施していくこと」「法制度上の整備を平成十八年の通常国会に提出予定の医療保険制度改革法案の中で対応すること」を求めている。具体的には、「特定療養費制度」を廃止し、「保険導入検討医療(仮称)」(保険導入のための評価を行うもの)と「患者選択同意医療(仮称)」(保険導入を前提としないもの)に再構成すべきと主張している。
 「株式会社の参入」について「答申」は、株式会社が直接、病院を経営することだけでなく、株式会社が医療法人に出資する方法での経営参加を求めている。現行では、株式会社は、医療法人に出資することはできても、議決権をもつ社員にはなれない。厚生労働省はその根拠として医療法第七条などの「非営利原則」をあげ、「株式会社は、医療法人に出資は可能であるが、それに伴っての社員としての社員総会における議決権を取得することや役員として医療法人の経営に参画することはできない」との課長回答を出している(平成三年一月十七日の東京弁護士会会長あての厚生省健康政策局指導課長回答)。「答申」では、この厚生労働省見解は法的に根拠がないと批判し、株式会社の出資による経営参加を認めるべきと主張している。
 〇五年三月二十三日に出された「追加答申」では、「情報開示の徹底」「IT化の推進による医療機関の業務の効率化」「診療報酬体系の透明化」「保険者と医療機関の直接契約の促進」「公的な医療機関の在り方の見直し」などが盛り込まれている。これらもアメリカと日本財界が毎年のように要求していた事柄である。そのうち「公的な医療機関の在り方の見直し」では、「公的支援を必要としない医療機関やその必要が薄れている医療機関については、廃止又は民間へ移管すべき」と、公立病院の民間化も促している。
 これらの答申は「規制改革・民間開放推進三ヵ年計画(改定版)」に盛り込まれ、〇五年三月二十五日に閣議決定された。「三ヵ年計画」は、政府の規制改革の全工程表というべきもので、各省庁の政策や法改正を拘束する。さらに進しん捗ちよく状況を「規制改革・民間開放推進会議」が点検することで、その実行も担保されるしくみになっている。
 その七ヵ月後の十月十九日に出された厚生労働省の「医療制度・構造改革試案」および、十二月一日決定の政府・与党の「医療改革大綱」には、日本財界とアメリカの要求が、おおむね盛り込まれた。
 図4は、彼らの要求と政府の「医療制度・構造改革」の関係を示したものである。
 医療費の抑制については、「大綱」で財界が求める経済規模からの目標(「総額管理方式」)が考え方として取り入れられた。財界が要求していた高齢者の自己負担増や公的給付の見直し(入院時の食費・居住費の全額自己負担など)や、「高齢者医療制度の創設」は、そのまま具体化されている。
 財界とアメリカの強い要求である「混合診療」の解禁については、「規制改革・民間開放推進会議」の「答申」どおり、現行の特定療養費制度を廃止し、「『保険導入検討医療(仮称)』と『患者選択同意医療(仮称)』に再構成する(〇六年十月目途に実施)」ことになった。「患者選択同意医療」の拡大によって「混合診療」を解禁していく方向である。
 「株式会社の参入」については、「試案」には明確にふれられていないが、「構造改革・特区」の活用をふくめ、引き続き厚生労働省内で検討がすすめられることになっている。十月二十八日の「規制改革・民間開放推進会議」で、鈴木良男議長代理(旭リサーチセンター会長)は「株式会社病院という問題は、ゴール中のゴールではないかという感じがしております」と発言している。

 アメリカと日本財界の要求で、公的医療の縮小と医療の市場化がすすんでいる。なぜ彼らの負担減と儲けのために、国民が大負担増を強いられ、国民皆保険制度を崩壊させられなければならないのか、怒りの根源はここにある。その怒りを結集した大きな国民運動と国会論戦で、医療「構造改革」阻止に全力をあげなければならない。
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