● ● ● ● 大門実紀史 Daimon Mikishi  ● ● ● ●

座談会
多重債務解決、高金利引き下げへ大きく前進させた運動の勝利(「前衛」2007年2月号)
[出席者]
新里宏二(日本弁護士連合会・上限金利引き下げ実現本部事務局長)
本多良男(全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会事務局長、東京・・太陽の会」相談員)
大門実紀史(日本共産党参議院議員・党国会議員団「高金利引き下げ対策チーム」責任者)

 編集部 サラ金などによる多重債務が深刻な社会問題になっています。これまでの長年にわたる運動と世論の高まりによって、サラ金など貸金業者を規制する貸金業規制法等の改正が、昨年秋の臨時国会で、昨年一二月一三日に成立しました(新しい法律名は「貸金業法・)。今回の法改正では、利息制限法の上限金利(二〇〜一五%)と、出資法の上限金利(二九・二%)の間のいわゆる「灰色(グレーゾーン)金利」が撤廃されました。これまで出資法の上限を超えないかぎり刑罰が科されないため、サラ金業界は、利息制限法に違反して民法上は「無効」であっても、罰則規定が設けられていないことをいいことにして、・灰色金利」でぼろもうけしてきました。きょうの座談会では、運動と世論の高まりがどのようにして大きな壁を突破して規制への第一歩を切り開いたのか、今回の法改正の意義と今後の課題は何か、今後の取り組みなどについて、運動にかかわってこられた三人の方に話し合っていただきたいと思います。

ついに高金利規制の突破口を開いた
 ・・初めに法改正の実現にあたっての感想を述べてください。

人の命に関わる問題としてとりくんだ運動の勝利
 新里 サラ金などの多重債務の被害は深刻だ、貸金業規制法等の改正は二〇〇七年一月がめどだ、運動を盛り上げて世論を変えていけば、かならず法律は変えることができるとたたかってきました。高金利を温存する特例も、利息制限法の実質利上げも、昨年九月に出た、自民党の意向を踏まえた当初の金融庁案から外させました。この当初案にたいしては、サラ金被害者や弁護士、司法書士らが「多重債務救済に反する」と大きな声をあげてきました。世論の批判を前に、与党側も方針を変えざるを得なくなり、今回の法改正が実現しました。運動の勝利だと思います。
 このたたかいは、そんなに甘いものではありませんでした。サラ金の金利が一〇%下がるということは、サラ金業界にしてみれば、貸付額が約二〇兆円ですから、二兆円もの利益が減ることです。しかし、それは人の命を守るためには必要なものです。やればやるほど壁が厚くて大変でしたが、人の命に関わる問題であるということが運動の大きな原点になって、ここまでこれたのかなと思います。
 ただ、今後、多重債務者を出せないような仕組みができてきたのですが、いま多重債務に陥っている人には法改正の効果は及びません。いま二〇〇万人以上といわれている多重債務者をどのように救済していくかが、大きな課題として残されています。また、法律には、施行後二年半以内に金利制度を「見直す」ということが明記されましたので、この期間、大きな責任を背負ったと思います。

二四年前からの悲願である金利引き下げが実現
 本多 私たちの全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会(クレサラ被連協)は結成して二四年です。高金利が許されているから、どんどん貸付をし、当然支払いが滞るから、過酷な取り立てもあるのです。私たちは、この被害の実態を告発し続けてきました。私たちが「サラ金三悪」と呼んでいる高金利、過酷な取り立て、過剰融資のなかでも、高金利が最大の問題です。被連協として、金利引き下げの要求は二四年前から掲げてきた悲願だっただけに、ようやくここまでできたなと喜んでいます。
 法成立時から、おおむね三年後の「見直し」に向けて、これからどうするか。利息制限法の上限を超えた「灰色金利」分相当の「過払い金」の返還請求が、大事だと思います。
 佐々木憲昭さん(共産党衆議院議員)も、大門さんも国会で追及されましたが、金融担当大臣は、改正前にも灰色金利は任意でなければ支払う義務がないことを顧客に説明するよう、貸金業者に義務付けると答えています。この利息は払わなくていいというのは司法の世界でも確定しています。三年を待たずに自主的に返還すべきです。弁護士や司法書士が代理人になった場合は、すぐに過払い金を返してくるが、被害者本人が請求したときでも返すべきではないかと佐々木さんが追及しましたが、これについてアイフルの社長は誠実に対応すると言っていました。ところが、実際は被害者本人が窓口に行った場合、誠実な対応になっていません。
 一四〇〇万人といわれているサラ金利用者の取り引き期間は平均六・五年です。六〜七年取り引きして、ずっと利息を払ってきた人は、利息制限法の金利で計算すると元金はゼロになります。ましてや、利用者の三〇%、四〇〇万人いるといわれている、取り引き期間が一〇年を超えた人は明らかに過払いです。サラ金業界は、二〇〇〇億、三〇〇〇億円単位で、過払い金返還請求に対応するために「引き当て金」(利息返還損失引当金)を準備しています。・直ちに私の過払い金を返してください」という運動を、この三年間、どんどんすすめて取り返す、そのことが実は利息制限法の上限まで金利を引き下げることと同じ効果になります。過払い金返還請求はどんどんやろうというふうに思っています。

高金利は政治の責任、その政治を運動が動かした
 大門 国民世論と運動の高まりが大きく政治を動かしたのを、久しぶりに目の当たりにしました。
 私は、国会ではヤミ金融の問題を二〇〇三年から取り上げてきました。昨年の三月四日に高金利引き下げの集会に出させてもらって、三月十五日の参院予算委員会(テレビ中継)で、急きょ当初予定していたテーマを変更し、灰色金利の問題を小泉前総理、与謝野前金融担当大臣にぶつけました。
 サラ金問題の経過を調べると、政治の責任が大きすぎます。そもそも、灰色金利で貸しても一定の条件を満たせば「有効な利息」とした「みなし弁済規定」は、与党の族議員と業界ぐるみの議員立法でつくられたものです。七〇年代後半から八〇年代前半にかけて第一次の「サラ金地獄」が社会問題になって、サラ金の高金利引き下げと規制強化をのぞむ国民世論が高まったときに、当時成立した「サラ金二法」(貸金業規制法制定、出資法改正。一九八三年十一月施行)は、業者に登録制を導入し、取り立て行為の内容などを規定しましたが、肝心の貸金業の金利は利息制限法の適用除外にし、・灰色金利」・みなし弁済」の規定を盛り込んだのです。私は、今度は何としても国会の責任で、その廃止を実現しなければならないと決意しました。
 国民世論の高まりと与党の良識ある議員の奮闘、わが党の先陣をきった論戦で、昨年七月には与党が「灰色金利」廃止の方向を打ち出すまでに追い込みましたが、その後、業界関係議員の巻き返しにより、九月中旬にまとめられた与党、金融庁案は「特例」の温存や利息制限法の区分の見直しなど、むしろ現状より改悪されるものでした。
 国民世論から厳しい批判をうけ、新里先生や本多さんたちの運動も春以上に大きな盛り上がりを見せました。わが党の国会議員団も法案提出の約一カ月前(九月二十六日)に「高金利引き下げ対策チーム」を発足。安倍内閣閣僚とサラ金業界との関係を暴露したり、命を担保にしたサラ金の団体生命保険の告発、十月十九日の街頭宣伝もふくめ大キャンペーンを展開し、・しんぶん赤旗」でも連日取り上げました。後日談ですが、昨年十二月十三日、法案が参院本会議で成立した直後、自民党の良識派の中心となった若手議員から電話があり、・あのときの共産党の活動は大きな影響を与えましたよ、ありがとう」といってくれました。
 国会に提出された法案は、経過期間はあるが「灰色金利」をきっぱり廃止し、被害者側の要望も相当取り入れたものになりました。わが党が再三、批判した自殺をもくろんだ団体生命保険の契約禁止なども盛り込まれ、画期的な内容になりました。
 さらに審議の中で、年収の三分の一をこえても「売却可能資産」があれば、さらに貸すことが出来るという総量規制の例外規定にも、不動産担保ローンなどの略奪的貸付に道を開かないよう歯止めをかけることも確約させました。返済能力のない人を保証人にし、その家を奪い取ろうとすることも防止するよう求め、大臣も「保証能力を超える保証契約の締結は行政処分の対象にする」と明言しました。
 ここまできたのは、国会の良識派の奮闘もありますが、なによりも日弁連や被害者の会、青年司法書士会などの運動の力が大きかったと思います。参院本会議で可決成立したあと、傍聴席におられた運動団体の方々の嬉しそうな顔を見て、まさに感無量の思いがしました。

米国政府・外資、業界、大銀行・生保、族議員の大きな壁を突破
 本多 「ヤミ金融対策法」が成立したときの見直し規定にともなって、〇五年三月から金融庁の「貸金業制度等に関する懇談会」が開催され、検討が始まっていましたが、当初は自民党が圧倒的多数を占めている国会でどうなるのか、本当に不安でした。私も〇五年六月に金融庁の懇談会で意見を述べましたが、懇談会は、金利規制について両論併記の方向でした。
 そうしたところへ、昨年一月、最高裁で「みなし弁済」規定を事実上否定する判決が出されました。利息制限法を超える利息については容易に認めるべきでないという内容でした。この判決どおりにいけば「みなし弁済」や「灰色金利」を廃止するしかなくなるはずでした。しかし、国会の中では、政府与党は貸金業界の政治連盟と結んで反撃に出てきていました。そのころは、なかなか厳しい状況だなと思っていましたが…。

貸金業界のバックには日米の金融大資本が
 大門 あのとき与党の族議員が民主党までまきこんだ「議員連盟」をつくろうとしていましたが、三月の予算委員会の質問のとき、テレビの前で業界とのつながりを暴露し、空中分解させました。実態を知らないで参加しようとした民主党のある議員は質問を聞いて「知らなかった、危ないところだった」と感謝してくれました。
 確かに「サラ金二法」のころも、貸金業界と与党のつながりは強かったのですが、いまは、大銀行がサラ金大手四社に貸付残高でそれぞれ一兆円以上もの融資をしているとか、生命保険会社も「命を担保」に借り手に生命保険をかけさせ、もうける仕組みをつくっているとか、アメリカを中心とした外資がサラ金大手四社にそれぞれ二〇〜五〇%もの出資をしているなど、貸金業界のバックには日米の金融大資本がいる。今回、これだけの大きな相手とたたかって、よく勝ったと思います。
 政治と世論の構造も昔と変わってきている。昔は中選挙区ですから、業界代表議員も議席の一角をしめることができましたが、いまは小選挙区になって世論を敵に回したら当選できない。世論にものすごく気をつかう。この問題だけは、消費税増税のように将来のために必要だなどというごまかしのきかない問題だから、運動と世論の高まりの中でストレートに批判を浴びます。そのことに敏感な自民党の若手議員なども頑張ってくれたんだと思います。ある議員は「赤旗」の報道を見て「発足したばかりの安倍内閣がサラ金内閣と呼ばれたら大変、傷がつく」と。

アメリカの圧力とのたたかいにも勝った
 新里 政府与党の自民党と公明党の金融調査会の連名で七月に出された「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」では、・灰色金利」の廃止を打ち出したものの、・小額・短期融資には上限を超えた金利で貸し付けられる特例措置」などを検討課題に掲げましたが、この夏の間に、大きなまやかしがありました。アメリカは、郵政民営化でもそうでしたが、年次改革要望書を出して、それが何年か後の日本の社会を全部わかるようになっているといわれています。今回の貸金業制度の問題でも、八月八日にアメリカの金融業界団体が与謝野金融担当大臣(当時、以下同じ)と駐米大使に上限金利引き下げに反対する内容の書簡を送りつけたり、八月二八日にアメリカのシーファー駐日大使が与謝野大臣に面談して、金利の規制強化は慎重にしてほしいと圧力をかけたと報道されています。その直後の九月五日に金融庁は特例高金利を認めた検討案を自民党に提示したのです。
 アメリカの圧力が日本政府にかけられてきている中で、日本型の暮らしぶりに新自由主義的な政策が持ち込まれてきて、格差が広がってきています。サラ金の業界というのは、いちばん金のない弱い層から高利をとって、自分たちは大きくなっていく。これは社会として、おかしいし、許されない。・みなし弁済」の問題だけではありません。サラ金の業績が伸びなくなったときに無人契約機が出てきたり、上場して資金を集めたり、テレビや新聞に大量のCM・広告を打って膨大な広告収入を上げさせる仕組みにメディアを組み込んでいくことで、サラ金業界がドンドン大きくなっています。それがこれだけ破産が増え、自殺者が増えてくると、野放図にやったツケが国民の怒りをかって、これまでにない大きな運動に広がってきました。アメリカの圧力に、この問題では勝ったと思います。いろいろな問題でアメリカにものをいったって、結局だめだという気分がありますが、そうではないということを示しました。このたたかいは、アメリカ流の新自由主義に対して、日本型の社会をつくっていくうえで、今後の運動に大きな弾みをあたえるのではないかと思います。

アメリカ型資本主義に変えようという野望の一つの破綻
 大門 アメリカの金融マネーは、日本の約一五〇〇兆円といわれる個人金融資産を狙っています。一つは、日本を株主本位の「株価資本主義」にして、M&A(合併・買収)などで儲けられるようにしようとしています。その際、個人投資家を引き入れその企業の株価総額をつりあげれば、より儲けが膨らみます。もう一つは、日本をアメリカのような徹底したクレジット社会にして、消費者金融への外資の参入を強めようとしています。個人の金融資産を株に投資させて資産がなくなれば、クレジット、ローン、サラ金で借りさせる、こんな全体像まで視野にいれている気がします。先ほど述べたようにアメリカの外資がサラ金大手に出資しているのもその一環です。
 この間、郵政民営化も医療の改悪もアメリカの圧力で日本の政治がゆがめられてきましたが、今回はそういうアメリカの野望が初めてくじかれたケースではないかと思います。
 しかし日本人をもっと借金づけにしようという動きは、形をかえてまた必ず出てきます。今回の法改正の外にある信販・クレジットを通して、そういう動きが強まる危険性もあり、注意が必要です。

抜本的な改正へと流れを変えたものは何か
共産党の追及で与謝野大臣が「CM不愉快」答弁

 本多 世論を大きく変えたことでいいますと、昨年一月に「みなし弁済」を無効とする最高裁判決がでたあと、三月四日に東京で高金利引き下げの全国集会を五七〇人の参加で開き、デモをおこないました。この問題では今までデモというのはあまりやったことはなかったのですが、それが全国に広がったんです。そのあと三月一五日の参議院予算委員会で大門さんが、大手銀行がサラ金を傘下に入れて消費者金融に乗り出している実態を新聞広告を掲げながら質問したのに答えて、与謝野担当大臣が「高い金利で貸す業者がテレビで堂々と広告を出していることは不愉快だ」・かつて超一流だと思っていた銀行がサラ金業者と一緒に広告を出していることは不愉快なことの一つだ」と述べました。さらに与謝野担当大臣は、翌日の同委員会での大門議員の質問に対して「二十数%の金利が社会的な常識として当たり前だと受け止められるような社会をつくってはいけない」と答えました。小泉首相(当時)は記者会見でサラ金の「取り立ての悪質さは極まりない、党派を超えて取り組む」と発言しました。
 大門 与謝野さんの答弁は、テレビ、新聞でも大きなニュースになりました。

アイフルの強引な取り立てに国民的な怒り
 本多 さらに四月にサラ金大手のアイフルが、強引な取り立てや必要書類を客に渡さなかったことで貸金業規制法違反に問われて全店で業務停止になりました。それを受けてマスコミがわっと書き出したのです。そのなかで「金融監督庁だろうと野球の監督だろうと連れてこい」などという、アイフルの取り立て状況のテープが生でテレビに流れました。それらを受けて、サラ金が悪質きわまりないという認識が国民の中に浸透し、これはなんとかしなければいけないという世論が生まれていったのではないかと思います。
 新里 それ以前にも、武富士も二回業務停止になっています。だけど業務停止がこれほど取り上げられませんでした。武富士のほうは、マスメディアが何か報道したりすると、逆に名誉毀き損そんの裁判を仕掛けてくるのです。しかし、それらの裁判で私たちは勝ち抜きました。そのため、武富士は訴訟をすると、かえって自分が損害賠償をとられてしまうという事態をつくりだしました。アイフルがひどかったこともあるけれども、沈黙を守らざるをえなかった。メディアが書きやすくなっていったこともあります。

九月の金融庁案のゆり戻しの後、世論が一気に変わった
 大門 高金利を温存する特例などを認めた、九月はじめの金融庁案が出たときは、どこでどなたとお会いしても、かなりがっくりこられていました。運動も盛り上がり、七月の金融庁の懇談会でも業界団体以外からは例外なく強い反対意見が出されたのに、どうしてこんなものが出てくるのか、という失望感が結構ありましたね。
 本多 そのときは、がっくりきました。
 大門 仙台の集会で新里先生とお会いしたとき、こんなものがそのままとおるわけがない・頑張りましょうと・その集会での新里先生の前向きで明るいあいさつが印象的でした。
 新里 そうでしたね。七月から八月にかけて、私たちは、いろいろなところから情報収集をして、金融庁案がこんなものだというのが具体的にわかってきて、それを早くメディアに伝えたいと思っていました。ところが、当時のメディアの報道はサラ金の問題について、いろいろ書いているが、少しずれた内容でした。たとえば、・特例を三年または五年認める」といいながら、いつごろから特例が始まるのかを明示できない、まさか、法律の成立から特例が廃止されるまで九年もかかる案が検討されているとは誰もわからない内容でした。八月三一日に初めてNHKが金融庁案の情報を収集して報道しました。そうすると、心ある人から、こんなはずじゃなかっただろうという声が上がってきました。そうした状況のなかで九月五日に金融庁案が発表されると、九月六日に自民党の後藤田氏が金融担当政務官を辞任するという流れになります。そのあたりからマスコミもおかしいと報道しはじめました。この運動を通して良識あるメディアの人たちが、現場をつかんでいくなかで、私たちの思いをつかんでフォローしてくれ、同じ思いでたたかっていると実感しました。
 本多 私も、金融庁案には怒って、・金融庁は国民を裏切るな」と金融庁に二回抗議のビラまきにいきました。自民党にも、はじめてのことでしたが、党本部前で三回ビラを配りながら拡声器で抗議しました。高金利引き下げの必要性を全国各地に知らせるため、東と西へ二台のキャラバン宣伝カーで四七都道府県をかけめぐり、弁護士、司法書士、被害者の会が主要駅頭、繁華街で署名を訴え、チラシを配布し、集会、シンポ、デモを行ってきました。

被害者、日弁連、労働運動、地方議会など運動の広がり
 新里 九月一九日に自民党は政務調査会で案を承認しました。それに対して、被害者の会、司法関係などの市民運動が運動を広げていきました。最後、押し切るうえで象徴的な出来事としては、先ほど触れられたアイフルの問題があったりして、やはりおかしいじゃないかという声が高まりました。日弁連として与党の人に理解してもらうために、こんなに与党議員を回ったことはないというぐらい何度も訪問・要請しました。今回、与党の自民党、公明党の中でも、いろいろな考えがあって、特例高金利を温存する金融庁案が流れていかないような状況をつくりだしたと思います。それを支えたのが、やはり大きな市民運動ですね。
 私たちの運動は、親しいメディアの人たちから、なんであんたたちの運動はそんなに狭いのか、そんなに狭くては法律なんか変わらないよ、たこつぼ化しているよと、よく言われましたが、今回は労働運動とも結びついたりして、高金利引き下げの署名も本当に数多く寄せられました。こんなに、いろんな団体が協調しあって担いあったことはなかったのではないでしょうか。それらが総合的にうまくいったという感じがします。
 被害者や司法書士、弁護士などで高金利引き下げのキャラバンで全国をめぐり、宣伝・署名に取り組みました。各地で毎週毎週デモをやったり、集会を開いたり、同じ日に何カ所でもやっているという状況でした。司法書士の青年組織の全青司の人たちは、地方議会の意見書採択を中心に頑張りました。全国で四三都道府県議会、一一三六市町村議会(一一月一四日現在)で上限金利引き下げを求める意見書が採択されています。署名を中心に取り組んだ高金利引き下げ全国連絡会や中央労福協、被害者運動の被連協、日弁連は、三四〇万筆(一〇月一一日現在)の署名を国会に提出しました。日弁連は主に政治家への要請活動に取り組みました。最終盤、一〇月一七日には国会を包囲する二〇〇〇人ものデモが行われ、ついに一〇月二四日に自民・公明の与党が特例高金利の導入撤回を決めました。一度は破れかけたけれども最後は押し切った。市民運動の勝利だったと思います。

金融庁の「落としどころ」のねらいを運動が乗り越えた
 大門 サラ金業界、大銀行・生保の特例高金利導入派は、巻き返しをはかるために、いろいろと考えたなと思います。クレジット・カード事業をやっている日専連が、カードローンが金利規制の対象にならないようにと、さまざまな結びつきを使って地元の自民党議員を動かしました。自民党の貸金族だけでなく商工族も動かしました。また、アメリカの要求もありました。お盆返上で自民党の族議員にツメられ法案づくりをさせられた金融庁は、そんなに言うならご要望どおりの案をつくりましょうと。しかしそんなものを出したら世論に叩かれるのはわかっていた。事実、九月はじめの・特例・が実質九年という案はマスコミからも袋叩きにあいます。金融庁の・落としどころ・は、九月十九日の五年間の特例を残した案だった節があります。マスコミの批判も一時鎮静化しますが、運動団体はおさまらない。後藤田さんも政務官を辞任する。わが党も・サラ金内閣・キャンペーンを開始する。とうとう金融庁の・落としどころ・・思惑を超えてしまって、特例金利の撤回という最終の政府案になったのだと思います。

弁護士と市民運動のむすびつきが力に
 新里 私は、このサラ金の問題に取り組む前は、弁護士報酬の敗訴者負担反対の運動に取り組んでいました。私は少し遅れて運動に参加したのですが、初めからやっていた人たちは、なかなか市民運動が盛り上がらないと悩んでいました。そのとき、地元の仙台で弁護士会と消費者団体などの市民運動をリンクしたらどうだろうと、弁護士会が市民団体に一緒にデモをやろうと提案して、二五〇人のデモで成功しました。それで東京でもやろうといったら、・えっ、デモなんて最近やってないよ」と消費者団体の人たちは言っていましたが、実際にやってみると、・ああ、元気出るね」となりました。さらに、それが日弁連の一〇〇〇人規模の請願パレードにつながり、署名も一〇〇万人以上集まりました。法律家団体と市民運動が連帯したとき、意外に大きな力が出るなというのを実感しました。今回の法改正に向けての運動でも、このことが大きな力を発揮したと思います。この力が世論・メディアを変え、政治家を変えていったのだと思います。これらの教訓は、今後の多重債務解決の運動にもつなげていきたいと思います。こうした問題で成功したら、いま国会情勢は厳しいけれども、憲法九条守れの運動などにもつながってくるのではないかと期待しています。

最高裁判決を引き出したものは何か
 本多 今回の法改正を実現するうえで、昨年一月の最高裁判決が大きな力を発揮したと思います。一九八三年の「サラ金二法」のときは、貸金業者が相手で、銀行やアメリカ相手という受け止めはありませんでした。当時、私たちは金利規制の要求で運動していましたが、よくわからないうちに、いきなり「灰色金利」とか「みなし弁済」の規定が入ってきてしまって、これはたいへんだと騒いだのですけれども、そこからたたかいが始まったわけです。多重債務者が急増するなかで、この規定の解釈を厳格にやるべきだと裁判を起こして、ついに最高裁まで行ったわけです。そのたたかいが一月の最高裁判決に実ったのだと思います。

被害の事実を徹底して示すことで最高裁も動かした
 新里 サラ金業界や大銀行などを相手にたたかう武器という意味では、広範な世論を味方にするうえでも、最高裁で「みなし弁済」規定を否定する判決を出したことの影響は大きいと思います。
 それまでの「みなし弁済」規定の解釈はどうだったかといいますと、私たちは絶対「みなし弁済」は認めないのですが、普通はサラ金の債務整理の交渉の場では、弁護士が間に入ると、サラ金業者は「みなし弁済」を主張しなくなるということがありました。現実に「過払い」分を返しているかというと、そこまではいかない場合もありますが、そういう状況でした。
 ところが、二〇〇〇年九月から商工ファンドが全件で「みなし弁済」を主張するようになったのです。しかも、同月に商工ファンドに業務停止処分が出たのです。全件で弁護団はたたかうために、当時、日栄・商工ファンド対策全国弁護団ができていましたので、商工ファンド側は「みなし弁済」はいっさいゆずらないとなったので、全件、裁判になりました。最終的に全国で八〇〇件の裁判が商工ファンドの件で継続したと言われています。
 実は、同じ商工ローン大手の日栄との間でも、過払い利息の充当方法や、日栄の全額出資の子会社の保証料が利息なのかが争われ、二〇〇三年七月十八日、最高裁は過払い利息の即時の充当と、保証料が「みなし利息」であるとして、まずは利息制限法を遵守する立場を明らかにしています。
 そして二〇〇四年二月二〇日に商工ファンドの事件での最高裁判決で「みなし弁済」規定は厳格解釈をするとしました(たとえば、書面の交付日について)。それは、利息制限法が原則であるということの確認なのです。その原則の例外が「みなし弁済」規定ですから、それは非常にきびしく解釈すべきだということです。最高裁のメッセージは、利息制限法が被害救済の武器なんだということを認めてくれたのです。そして、その判決に補足意見がついていました。それを見たときに、すばらしい、これを法廷意見にできないだろうかと思いました。それが、その後のアイフル系の商工ローン、シティズの最高裁判決に生かされて、今回の最高裁判決につながったのです。
 これらの裁判を通して思うことは、最高裁というのは、われわれが法律的な見解を出せば裁判所が判断してくれるのかと思ったら、そうではないのです。事実がすべてなのです。事実にもとづいて、その解決のための法理論をつくるのが最高裁です。だから被害の実態を出そう、被害者の声を最高裁に届けようと、二カ月に一度くらい最高裁の前で、被害の実態をビラにして配りました。全部で最高裁で三つの裁判を担当しましたので、合わせて三〇回以上、朝八時半に集まってビラをまくという街頭行動をしました。そうしたら、あるとき、書記官から「ビラの余りがありますか」と聞かれるのです。・何ですか・。「いや、裁判官が見たいとおっしゃいますので」と。裁判官はビラを見ているのです。最高裁はそういう事実が知りたいのです。本当にひどい実態の事実をつきつけることが、最高裁の三つの判決を引き出し、さらにそれが自民党議員をも動かすようになったといえます。

金融庁の懇談会では四人の遺影をかかげて発言
 本多 私たち被連協は、金融庁の懇談会で商工ローン被害の事実を自殺した人のケースなどを出して、四人の遺影をかかげて発言しました。・私は過払い金返還請求で何とかつなぐことができたけれども、(遺影を指しながら)この方は、生命保険で支払うようにと書き残して自殺されました。ところが利息制限法で計算すると過払いでした。過払い金を取り戻しても命は戻ってきません。こちらの方は、イッコーという商工ローンに売掛金を債権譲渡され、事業継続が困難になりました。従業員や家族思いのこの方は五二歳で首をつってしまいました。生命保険で借金はきれいに清算されました。こちらの二人は、日栄と商工ファンドの取り立てが怖くて自殺されました。農業をしていた六八歳と六五歳のご夫婦です。息子の借金の保証人になっていたのです。あと一五年は元気で働きたいと言っていたのに…」など、具体的に報告しました。高利貸しの借金に苦しんで自殺した被害者の遺影をかざしての報告に会場は静まり返り、審議委員のみなさんは身を乗り出して聞き入り、中には目頭をぬぐう委員もいました。事実で訴えるというのは、最高裁の裁判官も動かしたということでしょうね。
 新里 そうです。やっぱり実態がどうなっているかにもとづいて価値判断をしているわけですから。そういう意味では、〇五年から始めて、〇六年一月に最高裁判決が出てきて、・よおーし、やるぞ」となって、ガラッと流れが変わりました。

多重債務の根本的解決へ今後の課題
政府の多重債務対策本部を実効あるものにさせる

 新里 今後は多重債務者に高利の金はいらないということになりますから、相談体制をきちんとつくっていくことがいちばん大事です。どうそれをつくっていくか。大門さんが指摘されたように、多重債務問題を放置してきたことの大きな責任は、いいかげんな法律をつくってしまったことにあります。政府はそれを認めたわけではないが、今回の法律の附則の中では、多重債務問題の解決に資する総合的施策を推進することを国の債務として明記し、そのために内閣官房に「多重債務者対策本部」が設置されることになりました。体制的な問題としては国の責任をきちん果たさせなければならないと思います。
 さらに国に対策本部をつくるだけではなく、実際の実行部隊をつくる必要があります。そのためには自治体に実効ある相談窓口や相談体制をつくらせる必要があります。今度の運動の中でも、先に述べたように、全国の多くの自治体で高金利規制を求める意見書が採択されましたが、それは私たちが運動したからです。では、それを動かした土壌はといえば、地域に多重債務者がいっぱいいて、さまざま問題になっているからです。

多重債務対策とともに生活保護の問題が大事
 本多 法施行二年半後の「見直し」で高金利を認めさせるという揺りもどしの動きは、サラ金業界などはやってくるだろうと思いますが、これまでに高金利の廃止を求める運動がつちかってきた国民的な力は蓄積として残っていますので、そんな揺りもどしは許さないようにしなければなりません。今後、法改正を実効あるものにするうえでも、政府の多重債務者対策本部の役割を具体的にさせることを通して、相談の窓口や多重債務者対策をしっかりとらせることが大事です。
 それらの実行を迫るうえで、私たち被害者を救う運動としての役割も、いっそう重要になってきています。これまでの相談活動にくわえて、生活保護などの社会保障の問題のとりくみが大事です。被害者の会で相談している人たちの収入を見ると、生活保護基準以下の人がほんとうに多いのです。だから借りざるを得ないのです。今度の改正で、年収の三分の一を超える融資を禁止しましたから、今後は、そういう人たちに対する貸しつけが事実上できなくなりますから、生活保護を受けられるようにすることが必要です。現状は、申請しようと思っても、窓口でどんどん断わられて申請さえさせないことが多いのです。相談にくる債務者の人たちの生活の立て直しができる体制をつくらなければならないと思います。こうした債務者が生まれる背景には、派遣法など労働法制の規制緩和による雇用の不安定化で、若者でも収入がない人が多いのです。ほんとうに格差社会がひどくなっています。借りなくても、きちんと生活できる社会づくりをめざしていかないといけないのではないかとつくづく感じますね。

前向きの多重債務者対策を
 大門 法施行二年半後の見直しでは、業界側からの金利引き上げという巻き返しを許さないたたかいとともに、むしろ攻勢的な見直し要求を掲げていく必要があります。
 今回は、多重債務者を救済するための公的な貸付などのセーフティネット(安全網)が完備しないまま、貸金業規制法が改正となりました。むしろ今は、新自由主義的な「構造改革」で、貧困化がどんどんすすんでいるのに、国がセーフティネットを放棄しつつある。それが多重債務者をうむ問題ともリンクしているのです。セーフティネットの強化、拡充を二年半後の見直しの中心課題とすべきです。
 それこそ政治の問題。狭い意味での多重債務者対策だけでやろうとしてもだめです。この格差社会、貧困化をくいとめなければいけない。

生活保護の受給制限を突破するたたかいを
 新里 今、生活保護の保護費は国と地方を合せて二兆六千億円です。政府は、母子加算の削減など、これをさらに削減しようとしています。この問題は憲法違反であり、格差是正、貧困化対策をとらねばならないときに政策が逆行しています。生存権保障の実効化を迫るためには生活保護の現場からのとりくみが必要です。受給制限をすることに対して裁判をおこすことです。裁判をやったら勝てるのです。そうした裁判をきちんとやることによって、基準を上げて変なことをさせないような仕組みに変えさせていったら、予算が必要になってきます。法律家がサポートして、申請の代理や却下されたときに抗告で争うとかをすることによって、どんどん支給しなければならなくなってきます。
 弁護士で生活保護をやる人が増えてくると、生活保護の受給制限という状況を変えていけると思います。日本には破産法はありましたが、ほとんどが債権者破産といいまして、債権者側から申し立てをして平等に分配を受ける手続きでした。それを一九七〇年代後半から多重債務者を救済する仕組みとして自己破産の申し立てを利用するようにして、大きな救済の仕組みをつくってきました。生活保護でも、不当なことは裁判をおこしていかないと、切り捨てられる状況を許していくことになる。法律でたたかうことによってかちとれる面が大いにあるのです。
 弁護士は仕事でしているわけですから、ボランティアだけでやる運動では広がらないのです。たとえば、生活保護の申請代理やそれについて争うための手続きについての弁護士の費用を、法律扶助の手続きで出すような仕組みをつくらなければならないのですが、現状では、法律扶助は支援センターの方に移行して独立行政法人でやっているため、運用が厳しくなっています。生活保護は行政事件だから扶助の対象にしないというのですが、本来、民事事件だって行政事件だって扶助すべきです。今、日弁連では、自主事業として、生活保護など救済しなければならない問題にとりくもうとする人に資金的な手当をして活動を支えるような仕組みを検討しています。

これまでの運動の経験と今後の取り組み
全国の被害者の会を広げ、全自治体に相談窓口を

 本多 今後の運動の課題として、被害者救済のために、・みなし弁済・・過払い金返還請求、相談窓口、ヤミ金対策などに取り組んでいく必要があります。そのためにも、被害者の会は、いま全国で三七都道府県に七九ありますが、被害者の会の相談体制をより充実させていくことが求められています。七九の被害者の会では全然足りない。全市町村に相談窓口と多重債務者対策会議をつくらせなければなりません。私たちも被害者の会として頑張るけれども、同時に全国の地方自治体で弁護士や司法書士のみなさんや私たち被害者の会も一緒に入ったような対策会議ができて、そこできちんとした相談ができるような受け皿をつくっていかないといけないのではないかと思います。
 もう一つは、警察です。ヤミ金は撲滅させなければいけないのですが、これまで現場の警察官は、借りたものは払うべきだ、二九・二%の金利をつけて払うべきだという対応をしています。これは本当にひどい話です。法改正を徹底して、現場の警察官への指導、教育をきっちり求めたいし、やるべきだと思います。
 大門 臨時国会での参院の最後の質問で山本金融担当大臣に、都道府県ごとに自治体、警察に弁護士さんや被害者の会も加えた「多重債務者、ヤミ金対策会議」の設置、市町村ごとの相談窓口の設置を約束してもらいました。金融庁はやる気ですが、総務省の対応がカギだと思っています。まず省庁の縦割り意識を克服してもらわなければなりません。

弁護士の相談活動を広げるしくみを
 新里 ヤミ金に対しては、〇三年にヤミ金対策法をつくって厳罰化しています。今回の法改正では、さらに無登録と一〇九・五%超の超高金利での営業に対して懲役五年から一〇年に重罰化しました。それ以外にも、携帯電話の本人確認や銀行口座売買の禁止など彼らを摘発するための武器をいろいろつくってきています。先の通常国会では組織犯罪対策法を変えて、収益を没収して、それを検察官のもとで依頼を受けた弁護士に簡易配分する仕組みもできています。この法改正のもとで、きちんと摘発して違法収益を吐き出すようにやってもらわなければなりません。しかし、きちんとした武器ができているのに、現場で警察が使うマニュアルができていません。たとえば法律で電話の回線をストップすることになっているが、それに対応する仕組みができていないので、法律が現場に浸透しないのです。
 警察の対応の問題とともに、被害者自身が現場でたたかえる法律にすることが必要です。違法金利で金を貸した場合には、・お前に金を貸したじゃないか、何で払わないんだ」と取り立てにきても、・あなたに返す金はない。法律に書いてあるだろう」という法律をつくろうと頑張ってきたのですが、二〇〇三年七月のヤミ金融対策法で貸金業規制法四二条の二で業として一〇九・五%超で貸し付けた場合、契約全部が無効とされ、その後、札幌高裁判決も出され、元金も含めていっさい支払い義務はないのです。このことが現場の警察官にはまったく知られていないのです。
 先ほど触れた法律扶助とは別に、弁護士自身のとりくみとして、弁護士会の課題としては、ほとんどの弁護士会が多重債務の専門窓口をもっているのですが、有料のところと無料のところがあります。無料化の一番のメリットは広報がしやすくなることです。自治体の窓口や裁判所にパンフレットなどの資料を置くことができます。有料だと商売のサポートをすることになるとして置いてくれないのです。無料だと、メディアの広報でも大きくとりあげてもらえます。有料だと広報は自ら行わなければなりませんが、力がないものだから金をかけてやれないのです。
 これは弁護士の活動という面からもメリットもあります。無料にした場合でも、多重債務の相談は、相談だけでは終わらない。困っているので何とかできないかとなり、実践的な相談になる。ということは依頼を受けなければならない。すると、それなりの弁護士費用をもらうことになる。たとえば最低の法律扶助を使った場合でも、分割などの形でもらうことになる。

被害者の会でも生活保護の問題に取り組んで
 本多 多重債務の解決のためにも、これからの課題としては、生活保護の問題が大事です。私たちの「太陽の会」でも先日、生活保護の問題で勉強会をしました。申請窓口でのいわゆる「水際作戦」で申請用紙を渡さないとか申請書を受理しないというのを、どう突破するか。私たちも申請者に同行することにしようと、一緒についていって、窓口で職員の目の前に録音器をどんと置いて、それで申請書を出す。そうすると対応がまともになり、受理されるといいます。
 実は私の息子が残業代の未払いで裁判にまでなっています。電気工事会社で一年半、毎日三時間残業しているのに、まったく残業代がつかない。残業の記録を手帳につけておいて労働基準監督署に申告したが、それでも改善されないのです。それで、いま裁判を起こしてたたかっています。今の若者たちは、残業代も払われないなど無権利な状態におかれています。そうすると結婚もできないみたいな感じになっています。この前、テレビで、恋愛にまで格差社会があって、結婚できない若者がいっぱいいて三十数%にもなっていると言っていました。そういうひどい状態におかれているので、サラ金の問題だけではなく、そういう問題にも視野を広げて、きちんと生活できる、まともな社会づくりをしていかなければいけないなと、つくづく感じています。

多重債務問題から労働問題へ
 大門 日本共産党は国会で非正規雇用の問題を取りあげてきました。私も青年雇用や偽装請負問題を質問で追及してきました。
 請負労働者のある青年は、手取り給与が月一五万円、アパートの家賃、光熱費を支払うと食費も節約しないと生活できない。友人の結婚式があり、スーツを買いたいと思った。お祝い金も出したいと思った。それで初めてサラ金から五万円を借りた。しかしその五万円がなかなか返せず、他のサラ金から借りて返すようになっていった。多重債務者の問題の根底にはワーキングプアの広がりがあるのです。
 十一月に熊本に調査にいき、日掛け金融やヤミ金対策にとりくんでいる、青年司法書士の方々と懇談して、その献身的な努力に感動しました。
 そのとき若い女性の司法書士さんが、労働問題にも大変関心をもっておられました。多重債務者の問題にとりくむと、そこからワーキングプアなど社会全体のひずみも見えてくるのではないでしょうか。すごいなと思って聞きました。
 いま政府は、労働者に残業代を支払わなくてもよいとする日本版「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度を導入するという法案を準備していますが、こんなにひどい労働法制の規制緩和は国民との間に矛盾をさらに広げていますから、大いにたたかって、政治の大もとを変えなければならないですね。

自治体レベルの多重債務対策の取り組み
 新里 自治体に実効ある窓口をつくらせるうえで、すでに行われている長野県の取り組みは大いに参考になります。長野県は〇二年の「ヤミ金融被害救済緊急対策会議」の設置と「ヤミ金一一〇番」の取り組みから、〇四年に「多重債務問題研究会」を発足させました。これには県の弁護士会や司法書士会、貸金業協会、銀行協会・教育委員会・マスコミなど一八団体が参加しています。多重債務問題に関する機関のネットワークづくりとして・チームにわけて取り組んでいます・相談体制をやるチーム・中小事業者の支援をするチーム・生活支援や生活保護を支援するチームなどをつくって、それぞれに、その人たちがこういう場合はこうすべきだという指針を出しています。それで全体として取り組んでいます。
 一つおもしろいのは、滋賀県野洲市の経験です。市の消費生活相談員の女性一人を核にした取り組みです。彼女は、まず市役所内の各課の相談窓口のところに名刺をくばります。たとえば住民税を滞納した人の窓口とか、国民健康保険や生活保護の窓口です。それらの窓口担当者のところにいって、借金がある人は全部私にまわしてと伝えます。該当者が彼女のところにくると、たとえば借金があって国保を滞納しているから、入院しようと思っても入院できないというと、国民健康保険料については分納の手続きをすると約束してください、そうすると期間限定の保険証が出ます。そうすれば、その人は安心して病院に入院もできる。そしてサラ金の債務整理の方は弁護士さんを紹介して頼む。精算して過払い金が出た場合は国民健康保険料に充当してもいいと。そういうふうに生活相談員一人をキーマンとして、市役所の中でこの人にとって何が一番いいのかを考える。この人は生活保護が必要だと思ったら生活保護のところへ連れていく。そして生活保護を受けられるようにと直談判する。それで債務整理は破産の方法で処理する。

過払い金を取り戻して住民税・国保料の滞納を支払った
 本多 兵庫県尼崎市での話も参考になります。一九七一年ごろに夫の入院費のためにサラ金から借り入れを開始し、夫の収入とパート収入でやりくりしていたが、夫が病気で倒れて行き詰まり、多重債務の被害者の会「尼崎あすなろ会」に相談して債務整理しました。三五年間にわたって返済してきたため、二社で四〇〇万円の過払い金を取り戻すことができました。親族その他の借金も返してお金が余ったので、国保料の滞納八三万円と住民税の滞納一三万円も一括して払いに行きました。
 当初、市は受け取るかどうかということで戸惑ったらしいのです。しかし、好き好んで滞納したわけじゃないんだ、払おうと思ったが、そのお金をみんなサラ金に持っていかれちゃったのだ、こうやって取り戻したので一括返済できるんですと支払い、受け取らせた。そのことを市議会でも共産党の議員が質問で取り上げて、市長と被害者の会の話し合いができるようになり、市として多重債務対策を検討するということになりました。こうした対策をとることによって、過払い金返還によって自治体財政の改善にも役立ち、地域経済も発展することになります。行政が多重債務対策をすすめるというのは、たいへんなことというのではなくて、自分たちの町をよくすることにつながるんだ、そういう視点で取り組むべきことではないかと思います。

改正法を実のあるものにするために頑張りたい
 大門 今回の法改正は国民の世論と運動で実現しました。大きな一歩ですが、多重債務者救済はやっとスタート地点に立った段階です。改正法を実のあるものにするのが行政と国会の本当の責任だと思っています。
 私もさっそく全国の自治体、地域レベルのとりくみを研究するため調査活動に入っています。全国の地方議会でも多重債務者対策を取りあげていってほしい。
 引き続き、弁護士さんや司法書士、被害者の会のみなさんと力をあわせて頑張っていきたいと思っています。
 編集部 本日はありがとうございました。
(にいざと・こうじ/ほんだ・よしお/だいもん・みきし)
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